本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十四の巻(第114回)「海外独禁法の恐怖(4)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘社長の甥 グループ会社 脇甘アメリカ 社長 脇甘 亜米太郎(わきあま あめたろう)
相手方:
アメリカ司法省
海外独禁法の恐怖(4)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?:
米国司法当局が捜査を開始した場合の対処法について、犯罪人引渡条約も踏まえつつ、具体的、現実的、戦略的にみていきましょう。
グアムに向かった社長が、韓国・仁川空港で足止めを食っていたところ、法務部長から連絡がはいりました。
「現地の弁護士によると、制裁金100ミリオンドル(約100億円)を払えば和解して事件を終了してやってもいい」
と当局から持ちかけられたそうです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:司法取引も絶望的に不利な立場
逮捕・拘束されてしまった場合に登場するのが、司法取引です。
罪を認めて制裁金を支払う、という趣の交渉が本質です。
制裁金を支払うことを条件に、DPA(Deferred Prosecution Agreement:訴追延期合意)やNPA(Non-Prosecution Agreement:不訴追合意)を当局との間で締結すると大半の者は刑事訴追を免れます。
一部の役職者については、
「カーブアウト」
といって、刑事訴追を受けること(有罪判決が出れば刑務所に入れられる)を当局から求められることがあります。
ただ、これもどれだけ制裁金を払うか(あるいは、渋るか)によって微妙に変わってくるのです。
独禁法違反等の連邦犯罪の場合、
「1本」
の単位が
「100億円(100ミリオンドル)」
という相場観です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:シカトすればいいじゃん?!
米司法当局の捜査権や司法権は日本には及ばないことから、米国に行かないようにして無視するという対応も、第一次的には有効といえます。
問題となるのが、米国以外の第三国に入国・滞在する場合です。
第三国が米国と犯罪人引渡条約を結んでいる場合、その第三国で逮捕・拘束される場合があります。
また、日本でも、国際捜査共助法に基づいて、日本の捜査機関が米政府の要請に応じ、代わりに捜査するという制度があります。
2006年6月には日米刑事共助条約が締結され、国際捜査共助手続を利用する動きがさらに進んでいますし、犯罪人引渡条約も存在します。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:“穴熊作戦”はどうだ?
“抽象的・論理的”には、
「日米間には犯罪人引渡条約があるので、米国で犯罪嫌疑が生じたり起訴されたりすると、日本国内に逃げ帰っても安穏とできず震えて眠るほかな」さそうですが、
米司法当局が
「日本国内で穴熊を決め込んでいる犯罪人」
の身柄を“具体的・現実的”に手に入れるには、時間・手続にハードルが高い、といえます。
設例についてですが、そもそも、グアムは米国領内ですから、身柄拘束されかねません。
助言のポイント
1.捕まったが最後、悪名高い司法取引が待っている。逮捕・拘束された人質の解放と引換えに「1本=100億円」レベルの制裁金が控えているから、注意と警戒を怠らないように。
2.制裁金で全部チャラ!…と思ったら大間違い。当局は「カーブアウト」で最終的な人柱を求めてくる。誰がしかは刑務所に入ることを覚悟しなければならない。
3.とはいえ、司法管轄権は他国に及ばないのが原則。サピーナがきても、起訴されても、慌てるな。穴熊作戦と遠隔・土下座外交も検討すること。ただ、米政府が日本の捜査当局に協力要請したり、犯罪人の引渡しを要求してくる可能性もあるので、穴熊戦法も絶対的とはいえない。
4.何はともあれ、疑いをかけられないのが最善策。サピーナが届いてから慌てるのではなく、そもそもカルテルを疑われないような社内体制の整備や従業員教育の徹底を図ろう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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