01028_企業法務ケーススタディ(No.0348):アクティビストが襲来した!(3)委任状争奪戦が始まった!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十の巻(第120回)「アクティビストが襲来した!(3)委任状争奪戦が始まった!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社グループ内上場企業 脇甘フーズテック株式会社 役員 凡田 蔵男(ぼんだ くらお)

相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカファンド)

アクティビストが襲来した!(3)委任状争奪戦が始まった!:
外資系のファンドに株主名簿を要求され、あっさり手渡してしまいました。
ファンド側は株主提案を行い、激しい委任状争奪戦が始まろうとしています。
株主はまったく無反応です。
そこで、株主優待の前渡しとして、委任状であれ議決権行使書であれ総会出席であれ、とにかく総会に参加してくれたら、脇甘カードをプレゼントすることにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:議決権行使書と委任状
プロキシーファイト(Proxy Fight)は、委任状争奪戦といわれます。
もっとも、株主が1000人以上の会社については、会社法上、議決権行使書方式が強制されるため(会社法298条2項)、上場企業で委任状方式は基本的にお見かけしません。
株主総会に、株主が行うアクションは次のようにわかれます。
1 実際に総会に出席し、賛否を投じる
2 議決権行使書に○×を書き、返送して、賛否を投じる
3 委任状を書き、誰か(代理人)に議決権行使を委任し、代理人を通じて賛否を投じる
4 何もせずに放置
一般的な個人株主の行動として最も多いのは4です。
2と3の違いのポイントは、議案書に書いていないが、株主総会の現場で、いきなり想定外の提案等(動議といいます)がなされたときに、対応できるかどうか、です。
議決権行使書は議題に対する賛否を表明しているだけなので、賛否を表明していない議題等には議決権行使ができません。
だからこそ、議決権行使書ではなく、動議への議決権行使対応ができる、オールマイティな
「委任状」
を別途かき集める必要がある、ということになるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:議決権行使に関する利益供与
個人株主という人種は、自分にトクにならないことには指一本動かしたくないチョー利己的な人たち。
株を有する会社が、気に食わない議題を提案してきた場合、いちいち、×をつけ、ポストに行き、送り返す暇があるくらいなら、インターネットを開いて数回クリックして株式を売却てサヨナラするでしょう。
そんな個人株主を動かそうとして、カネや利益で釣ると問題になります。
会社法120条は、株主の権利の行使に関する利益の供与の禁止を定めていますし、株主の権利の行使に関する利益供与の罪(会社法970条)という形で、違反したら、3年以下の懲役刑が待っています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:モリテックス株主総会決議取消請求事件
委任状の勧誘をする際、議決権を行使した株主についてはクオカード500円分を贈呈することを表明し、実際、7000名を超える株主に対して、クオカードが贈呈された裁判例では、株主総会の決議の結果を不服とした筆頭株主側(会社からみると野党側)が裁判所に株主総会決議の無効ないし取消しを求めて訴え、東京地裁は、違法・取消判決を下しました(平成19年12月6日判決) 。

助言のポイント
1.総会当日、動議が出され、荒れ模様が予測される場合、議決権行使書では動議に対する決議に対応できない。
2.アクティビスト・ファンドとの戦いでは、議決権行使書ではなく、金商法にシたがって委任状を従って勧誘し、可能な限り多くかき集めること。
3.個人株主は、「メリットがなければ指一本動かさない」という超利己主義者だから、委任状争奪は大きな試練と心得よう。
4.だからといって、カネや利益で誘導すると、株主の権利の行使に関する違法な利益供与として、株主総会決議取消し、代表訴訟、さらには刑事罰といったキッついペナルティーを食らうことになる。裁判所の温情も期待できないから、禁じ手は一切控えること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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