本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十一の巻(第121回)「アクティビストが襲来した!(4)いよいよ株主総会が始まるぞ!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
当社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
同社法務部員 銚子 則夫(ちょうし のりお)
同社法務部員 林 建(はやし たてる)
相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカファンド)
アクティビストが襲来した!(4)いよいよ株主総会が始まるぞ!:
株主総会前日のリハーサルで、顧問弁護士は、
「会社には説明義務があり、違反すると、総会決議取消訴訟が提起され、敗訴することになるため、とにかく、きっちり丁寧に説明して、相手にスキをみせないようにしましょう」
と助言します。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主総会、そんなに大変?
株主総会は、株主、すなわち、株式会社に対して元手(資本金)を出した、共同オーナーの方々が集まって、役員人事や決算承認、その他会社の基本方針や重要事項を決定する、会社の最高意思決定機関です。
上場企業は一定の浮動株の存在が前提となっており、何を考えているか、何を言い出すかわからない集団相手に、疎漏なきよう、しっかりとした機関運営を行い、会社の意思決定基盤を盤石にしなければなりません。
どれだけ予測し、想定し、準備しても想定外の波乱が起こる何でもアリの総力戦です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:数の力にモノをいわせる合理的行動
国会の委員会で、強行採決がされる場面を思い起こしてください。
審議をさらに重ねても、与党と野党では、意見の隔たりが大きくなることはあっても一致をみることは想定されません。
そんな状況において、最低限の審議の機会さえ与えれば、あとは、数の力で、採決を強行して、本会議採決を経て法律を作ることは、一定の合理性がないとは言い切れません。
エレガントで芳しいとはいえませんが、
「相手を満足させるために、際限なき妥協の末、時間と労力を無限に費消し、挙句の果てには、相手の言いなりになる」
という最悪の結果を考えれば、相対的には正しい行動と評価できます。
日本国家の立法機関運営ですら堂々とやっていることですから、たかが市井の会社の意思決定機関運営が真似たところで問題はなさそうです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:株主総会における説明義務
会社側には
「説明義務」
が課せられており、この義務に違反して総会決議を強行すれば、当該株主総会決議は瑕疵(法律上の欠陥)を帯びることになり、後日、株主から取消請求を申し立てられる危険性が出てきます。
しかし、何をどの範囲で説明するかは法律的に一義的に決まっているわけではなく、状況や解釈によってさまざまな結論となり得ます。
さらにいえば、説明義務が生じるかどうかも議論になり得ます。
そして、仮に、株主総会決議が瑕疵を帯びた、としても、これを不服とする株主側が相当過酷なまでの資源動員(カネを払って弁護士に依頼し、時間と労力をかけて、訴状を作成し、裁判に持ち込むという負担)をして、3ヶ月以内に裁判を始めない限り、瑕疵は勝手に治癒されていきます(会社法831条1項)。
「瑕疵はあるけど、取消しまでは必要なし」
ということが制度として存在するのです(裁量棄却制度、会社法831条2項)。
さらにさらに、仮に、株主総会決議が裁判所によって取り消されても、もう一回総会をやり直せばいいだけです。
助言のポイント
1.株主総会は、確かに会社の最高意思決定機関であり、重要なイベントだが、必要以上に恐れない。
2.野党側は、要不要、関係のあるなし、どこまで深掘りするか、に関係なく、とことん説明を求めてくるが、言いなりにすべてに付き合って、主導権を握られるような事態は避けること。
3.説明義務違反は総会決議の取消原因とはなり得るが、「説明義務違反か否か」は争点になるし、取消請求する野党株主側としてはリスクと負担を被るわけだし、さらには、裁量棄却という救済措置も用意されている。万が一、取り消されたら総会やり直しも辞さない、くらいの覚悟をしておけば怖いものはない。
4.説明義務違反、総会決議取消、むやみに恐れない。むしろ、無用に恐れるあまり、総会運営が制御不能になる事態を恐れること。最後は、国会の委員会強行採決をイメージし、果断に対処すこと。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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