01031_企業法務ケーススタディ(No.0351):アクティビストが襲来した!(6)TOB・完全子会社化で幕引きするほかないか・・・

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十三の巻(第123回)「アクティビストが襲来した!(6)TOB・完全子会社化で幕引きするほかないか・・・」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
当社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
当社 グループ会社 脇甘フーズテック 監査役 円際 寒山(まどぎわ かんさん)

相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカファンド)

アクティビストが襲来した!(6)TOB・完全子会社化で幕引きするほかないか・・・:
大荒れの株主総会を乗り越え、落ち着いたのも束の間、今度は提訴要求通知が舞い込みました。
再び窮地に陥る中、ファンド側から非公式な接触があり、一連のトラブルを終わらせる魅力的な提案がなされました。
「もし、親会社が主導してTOBして完全子会社化するのであれば、代表訴訟を取下げてもいい」
この話にのるほか、解決する道はないのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:アクティビスト・ファンドの目的
ファンドの目的は、平たくいうと、カネ儲けです。
なお、アクティビスト・ファンドが持っているカネは自前の資金ではありません。
ファンドという以上、投資家から集めたカネを運用します。
彼らは、そこそこの期間で、そこそこのリターンを求めます。
ファンド側は、手っ取り早くカネを儲けてエグジットしたいのであり、会社役員の責任追及に何年もかけるほど暇も余裕もない、という推測も成り立ち得ます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:買った大量の株は売るのが大変
投資家にとって、もっとも重要なのは出口戦略です。
「勝ち逃げ」

「損切り」
いずれも
「逃げる」
ための手法をうまく操り、カネを増やすことを目的とする生き物であり、これはアクティビスト・ファンドも同じです。
アクティビスト・ファンドが、一般の投資家と際立って違う点は、株を買い集めて、そこそこ大きな割合の株をもってしまったら、出口がなかなかみつけにくい、という点です。
いきなり売ると需給バランスが悪化し値崩れを起こしてしまいますし、段階的に売却すると大量保有報告で撤退・腰引けモードが露見してしまいます。
大量の株を一挙に高く売りつけるには、投資先の会社が自社株買いをしたり、経営陣がMBOしたり、親会社がTOBして完全子会社化したり、という手法がもっとも手っ取り早いです。
ただ、いきなり、投資先の会社に出向いて、
「TOBやれば」
と提案しても、一蹴されます。
そこで、
「もう上場なんて懲り懲り。
早く、市場から退場して、誰にも邪魔されずに楽しくのんびりしたい」
と思わせるために、プロキシーファイトや株主提案や提訴要求通知を、
「会社を健全化する」
というお題目の下、仕掛けたのではないか、との推測も成り立つのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:相手の嫌がることをして、相手のして欲しいことは絶対しない
株主代表訴訟が経営活動の失敗による損害の賠償をテーマにする場合、株主側はそう簡単には勝訴できません。
といいますのは、ビジネス・ジャッジメント・ルール(経営判断の原則)、すなわち、
「取締役が行った経営判断によって、結果的に会社が損害を被ったとしても、当該経営判断が合理的で適正なものである場合は、裁判所は、取締役の経営判断の是非に干渉せず、当該取締役を法的な責任を負わせない」
という法理に基づく抗弁が働くからです。
延々と経営判断の当否の議論がされた挙げ句、大抵、取締役側の勝訴に終わります。
株主代表訴訟の印紙代は安くなったものの、原告・株主側の弁護士費用は、やはり原告自身が負担する必要がありますし、他方、取締役側は、大抵D&O保険に加入しており、対応予算は潤沢にあります。

助言のポイント
1.アクティビスト・ファンドも、金儲けが目的。相手の意図や目的と置かれた状況を正確に把握して、口車に乗せられないように。
2.大量株は、売却するのが大変。その意味では、アクティビスト・ファンドは、常に、出口探しに難儀している。
3.TOBについては、資金や手続コスト、上場メリットの放棄といったデメリットも大きい。焦っているのは相手の方。相手の弱点や急所を掴んで、むしろ、攻勢に転じることも考えること。
4.「経営に失敗したから損害賠償せよ」という理由の株主代表訴訟は、ビジネス・ジャッジメント・ルールで対抗しよう。D&O保険で潤沢な軍資金を手に入れ、徹底抗戦し、逆に、相手を泥沼の長期戦に招き入れ、追い詰めよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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