本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二十四の巻(第124回)「仮差押をブッ込まれた場合の対処法」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
グループ会社 デベロッピング・ベンチャーマインド・ソリューション社(「デベソ社」) 社長 一手 久太郎(いって きゅうたろう)
相手方:
大東亜紡績
どつぼ銀行
仮差押をブッ込まれた場合の対処法:
子会社が関わったプロジェクトについて、取引先の先代オーナーの激怒を買い、返金騒動にまで発展し、交渉が破談しました。
しばらくしてから取引先銀行から預金が仮差押となったと連絡が入り、これと前後して、
「カネの7割返せば仮差押を解除してやる」
という話が、相手の代理人からありました。
契約書もあり、未払いもあるとはいえ、裁判所の仮差押命令が出たのなら負けたも同然で、銀行の預金が使えないとなると、事業の継続は困難です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:仮差押命令とは
仮差押とは、これから訴訟を起こす債権者が、後にせっかく勝訴判決を取っても強制執行できない状態となるのを防ぐために、債務者(これから被告となる者)の財産が自由に費消されたり売り飛ばされないよう裁判所に申し出て、凍結する手続きのことです。
発令するためには要件が必要です。
「裁判に勝てそうな蓋然性(債権が存在しそうなこと)」
はもちろんのこと、仮差押される方の迷惑や損害を填補するための担保を積ませてから発令されるのが一般的です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:簡単に発令される仮差押命令
仮差押命令には、債務者のヒヤリング(これを「審尋」という)は予定されていません。
債務者に仮差押の動きがバレると、ずる賢い債務者は先んじて財産を処分するかもしれないので、影でこそこそ行うことが手続上想定されているのです(これを密行性という)。
とはいえ、債権者はきっちり申立書を書き、証拠をつけ、裁判所に出向いて、審尋手続で説明し、担保を決めてもらい、払い込まなければなりません。
不動産という財産に仮差押がかけられると、不動産登記簿の甲区欄に
「仮差押」
という登記がつくことになりますし、預金債権に仮差押がかけられると、取引先銀行から緊急連絡が入り、大騒ぎになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:仮差押命令を争う方法
仮差押命令(保全命令)について理由がない、必要性がないといって争い、取消しや変更を求める場合、保全異議(民事保全法26条)という不服申立てを行う方法もあります。
とはいえ、保全異議はそう簡単には出ません。
当事者双方に対していいたいことをいわせる機会を与える(手続保障)必要から、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる期日を一度は経なければなりませんし、実際、裁判実務においては、すべての保全異議の期日について債権者、債務者双方審尋がなされますし、審尋期日が何度か開催されることもあり得ます。
そうこうしている間も、銀行が融資一括返済の動きを始めるかもしれず、債務者としてあまり悠長な態度で構えていられません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:カネがある場合に、手っ取り早く仮差押命令を無効化する方法
手っ取り早く仮差押命令を無効化したい場合、発令と同じくらいスピーディでインスタントに仮差押命令を事実上なくす方法があります。
仮差押解放金による仮差押命令の取消し、と呼ばれるもので、債権に見合う金銭を債務者側に供託させ、債務者がこれを理由に仮差押の執行の停止または取消しを裁判所に求める、という手続きです。
助言のポイント
1.仮差押命令は、債務者の知らないところで勝手に行われる。
2.仮差押命令如きで慌てるな。まだ正式裁判で負けたわけではない。
3.仮差押命令でパニックになっているところに提案される相手の和解案には迂闊に乗らない。
4.不当な仮差押命令には保全異議で徹底的に争おう。時間的に切迫していて、カネに余裕があるなら、仮差押解放金を積んで、取消し、変更で対応。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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