本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2020年2月号(1月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百三十一の巻(第131回)「団体交渉でボロ負けしそうだ!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社総務部 社員 賀茶津 猛(がさつ たけし)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
相手方:
脇甘商事株式会社 総務部 元社員 繊田 細子(せんだ さいこ)
団体交渉でボロ負けしそうだ!?:
労働組合は存在しないはずの脇甘商事に、団体交渉の申入れがあり、交渉が始まりました。
ことの真相は、出社しなくなった社員に退職してもらったところ、退職撤回を求めて、独立系労働組合に駆け込んだ、というものです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:誠実交渉義務
「義務的団交事項」
について団体交渉が申し込まれますと、誠実交渉義務が生じ、この義務に違反すると、
「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと(労働組合法7条2号)」
に違反する不当労働行為とされ、
「労働委員会に申し立てられ、救済命令を食らう」
というリスクにつながっていきます。
誠実交渉義務は、
「言いなりになる」
ことを意味するわけではありませんし、
「正当な理由に基づき交渉を拒否すること」
は、不当労働行為でもありません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:セクハラ、パワハラ、強迫による退職といった交渉テーマと誠実交渉
セクハラやパワハラでは、
「ちょっとした発言や、行動や、指示の仕方や、声のマナーやトーンが、受け手の感受性を基準に解釈したら、ハラスメントに該当する」
という
「判定が困難な、わかりにくい」
ケースがほとんどです。
そもそも、基礎的な事実の確認段階で、
「いった」
「いわない」
の争いになりますし、仮に、特定の事実の存在が確定しても、言い方や喋り方や態度を含めた
「当該事実の解釈」
をどうするか、という問題が発生します。
議論して妥協して調整するような議題ではなく、いつまでも平行線というのは普通に起こり得る話で、
もとより、この種の紛争について、
「事実の存否や評価、さらに一定の事実に法を解釈適用して結論を出して、紛争を最終的に解決する」
のは、唯一、裁判所だけが強権的になし得るものです。
議論が平行線のままであれば、話を打切り、裁判所に話を持ち込む、というのは違法でも何でもありません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不当労働行為? 争議行為? それって、そんなに怖い?
裁判所にいくしか解決が進展しないような話が団交事項となっている場合、当然、会社としては、
「正当な理由により団体交渉の継続は無理なので、交渉打切り」
を宣言することになると考えられます。
たとえ会社側の交渉打切りに正当性があっても、組合側が不当労働行為であると言い張って労働委員会に駆け込むかもしれませんし、争議行為が始まるかもしれません。
そういう恐怖もあり、会社側として、組合の言いなりになる場合もあり得ますが、食らうペナルティは、何千万、何億円といった巨額の賠償や操業停止ではなく、
「交渉の席につけ」
「謝罪して二度としないと反省文を書いて貼り出せ」
といった、いわば
「お叱り」
だけです。
さらにいえば、労働委員会の判断に不服があれば、裁判所でこれを争うこともできます。
助言のポイント
1.団体交渉においては、組合と誠実に交渉する義務があるが、だからといって、これは「組合の言いなりになる義務」を意味するわけではない。
2.団交事項によっては、事実の存否や法解釈など、そもそも、妥協や譲歩によって解決することに馴染まないものもある。その場合、議論が平行線になるのは、ごく自然の成り行きだから、決して慌てない。
3.議論が平行線になったり、進展がない交渉を打ち切ろうとすると、組合側は不当労働行為や争議行為をちらつかせ妥協や譲歩を迫るが、そんなものにビビらない。
4.不当労働行為といっても別に大きなペナルティを食らうわけではないし、争議行為といっても従業員全員のストや会社の業務が停止するようなものではない場合もある。恐怖の根源と本質を冷静に見据えて、賢く対応しよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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