3 危険負担法理の援用
例えば、売買契約を締結したものの商品の引渡しは済んでいないという状態において、商品が震災等の不可抗力によって滅失してしまった場合、本来は、売買代金の請求などできそうもないように思えます。
しかしながら、危険負担法理を効果的に用いた法務戦略により、商品を滅失しておきながら、なお代金請求だけ可能となる場合があります。
危険負担とは、
「運悪くモノが滅失してしまったときに買主と売主のどちらがその損失を負担するのか」
という場面を処理するための法理です。
債務不履行のようにどちらかに滅失について帰責性があれば物事は単純ですが、天災等によりモノが滅失した場合に、どちらが危険(=損失)を負担するのかが問題となります。
最善策は、そのような場合の負担について契約でしっかりと定めておくことですが、契約で定めておかない場合も多々あります。
そのようなときには一般法である民法により処理されることになりますが、民法は
「特定物については債権者が負担、不特定物は債務者が負担」
としています(民法534条、536条)。
敷衍しますと、
「誰が悪いわけでもなく商品が滅失した場合には、買主が引渡しを請求できなくなるのだから、引渡義務を負っていた売主(=債務者)も商品滅失の損害は負担しなさい」
というルール(危険負担における債務者主義)が原則であるものの、目的物が特定物(世界で唯一のものである等、モノの性質に着目して取引の対象物としたもの)の場合には、
「たとえ引渡しが売り主からなされていなくとも、買主は転売することもできるのだから、滅失した場合であっても代金を支払うべき」
というルール(危険負担における債権者主義)が例外的に定められています(民法534条)。
ここで、この
「特定」
という概念は、種類物(どこにでもある一般的な商品)であっても買主のために他の商品と分離をして準備をしたことを通知した場合に適用される法律効果であり、すなわち
「特定物」
と同様の効果が生じるとされています(民法401条2項)。
このため、不特定の商品を売る売り主としては、買主のために準備・分離・通知を行うことで、仮に震災等により滅失した場合であっても、その損害を負担する必要がなく、買主に対して滅失した商品の売買代金を請求することができるのです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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