冷戦時代においては、日本は、西側世界の工場機能を一手に引き受け、
「作ったら売れる」
という環境においてひたすら右肩上がりの成長をしてきました。
冷戦が終結し、世界中が一つになった市場に向かって能率競争(価格と品質による競争)を行うようになりました。
その結果、世界中で、供給過剰になり、モノがあまり、だぶつき始め、低成長時代に突入することになりました。
日本は、
「便利な品を安く、早く生産できる、効率的な世界の工場」
から
「生産コストが高く、規制や言語や文化の特異性による障壁が高く、使いづらい老朽設備だらけの古びた辺境の工場」
に変化していきました。
倒産に瀕した企業などでは、盛んに高度成長時代の思い出が語られます。
曰く
「昔は全員残業してフル稼働しても生産が追いつかなかった」
「ちょっと前は、人がたくさんいたんだよな」
「あんときは、どんどん設備を更新していたよなあ」
「昭和時代は、たくさんの下請けを使っていたんだよ」
「高度成長期は、メーカー主導で価格交渉していたんだよなあ」
などなど。
しかしながら、先程述べたように、市場におけるゲームのルールが劇的に変化してしまいました。
企業を運営する方向性としては、オペレーション(業務遂行)とイノベーション(業務改革)のつがあります。
経済が膨張(インフレーション)し、市場にモノやサービスが足りない状態のときは、オペレーションに比重がおかれます。
そして、オペレーションにおいては、余計なことを考えずにひたすら目の前のルーティンをこなすことが重要となります。
ところが、供給過剰になり、市場が小さくなり、価格競争・品質競争が激化すると、環境適応のためのイノベーションが重要となり、これができない企業は淘汰されることになります。
「環境が激変する現在において、生き残ることができる企業」
とは、イノベーションができる企業、すなわち、過去を振り返らず、ひたすら現在の状況に適応できる企業といえます。
そして、そういう未来を志向する企業は、上から下まで過去を偲ぶ暇がなく、逆に過去を偲ぶタイプの人間は、はるか昔に解雇されています。
社長以下幹部が過去の栄光を振り返るだけで現在の挫折を改善しようとせず、また、中間管理職もそういうタイプの人間ばかりで、社内全体に過去に執着するような文化が蔓延しているような企業に未来はありません。
また、現状において売り上げをそれなりの水準を維持している企業であっても、成功体験に固執し、変革や環境適応の努力を怠った場合、栄光の日々の終焉に気付かないまま、ある日突然、命脈を絶たれる場合があるのです。
ある小説にこういう一節があります。
「過去の栄光とやらは、いつでも、いまの挫折に結び付くのさ。女々しくすがりついていないで、とっとと忘れちまえ。いいか。過去の栄光ほど再出発を邪魔するものはない。過去の栄光ほど惨めったらしいものはない。栄光の条件を教えてやろうか。栄光は、常に現在形でなくてはならんのさ。過去形の栄光は、正しくは、挫折と呼び慣わすんだよ」
これは芥川賞作家の花村萬月氏の書いた
「新宿だぜ、歌舞伎町だぜ」
という短編小説における主人公のセリフですが、このことは企業にもあてはまります。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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