01545_取締役の悲劇(1)_取締役なるためには、学校も、試験も、資格も、能力も、条件も何にもない。したがって、「取締役」というだけで、一定の知的水準や専門能力の裏付けとはみなせない

新聞やニュースをみれば明らかなように、日本の企業社会においては、会社や会社経営者をめぐるさまざまなトラブルは常にどこかで発生しており、これらが絶えてなくなることはありません。

本稿から6稿の連載で、
「取締役の悲劇」
と題し、会社や会社経営者をめぐるさまざまなトラブルが恒常的に発生する原因について、いつものように、私なりの偏見と決めつけに満ちた雑感を述べてみたいと思います。

さて、一般的に、日本社会において
「ステータス」
といわれるものを有している人種については、
当該「ステータス」
といわれるものを獲得する過程で、一定の厳しい条件を達成あるいはクリアすることが要求されます。

たとえば、
「医者」というステータス
を獲得するためには大学医学部を卒業して医師国家試験に合格することが必要ですし、
「弁護士」というステータス
をもつためにはロースクールを卒業するか予備試験に合格した上で司法試験及び考試(司法研修所卒業試験。通常「二回試験」)に合格することが必要になります。

政治家になるには選挙という通過儀礼を経由することが必須ですし、大学教授や博士になるには論文や学術上の実績が必要になります。

教員には教員試験、公務員になるには公務員試験の合格がそれぞれ必要になります。

以上みてきた
「ステータス」保持者
は、各試験や通過儀礼を経由する過程でそれなりの時間とエネルギーとコストを費やすことを余儀なくされます。

そして、その
「ステータス」取得プロセス
での艱難辛苦を通じて、自分が目指すべきキャリアのことを真剣に考えさせられ、また当該キャリアを手にした後のビジョンをいろいろと描くこととなります。

憧れのキャリアを手に入れる過程で、悩み、苦しみ、考えたせいか、
「キャリアを手にしたものの、どうしたらいいかわからず、途方に暮れる」
というような人間は基本的にいないように思われます。

しかしながら、
日本社会における社会的「ステータス」
の中でも、取締役(代表取締役であるいわゆる「社長さん」を含む)と言われる方々は、以上みてきた方々とはかなり事情が違うようです。

「取締役」というステータス
を取得するためには、試験とか資格とか能力とか条件とか一切ありません。

病人であろうと、知的水準や社会的常識に問題があろうと、あるいは破産者であろうとOKです。

前科前歴が華麗な、凶悪犯だって
「取締役」
になることができます。

老若男女問わず、誰でも
「取締役」というステータス
を得ることができます。

この
「取締役」というステータス
を手にする上では、お金もそれほどかかりません。

会社法が改正され、資本金が1円でも株式会社の設立が可能となりましたので、登録免許税等の実費を考えなければ、1円だけもっていれば、誰でも
「取締役」
になれるのです。

ゲゲゲの鬼太郎、といっても、昭和時代に放映された第一次テレビアニメ版の主題歌(OPソング)で、
「おばけにゃ、学校も、試験も何にもない」
という著名(といっても昭和生まれにとってですが)な一節がありますが、
取締役も同様であり、
「取締役にゃ、学校も、試験も、資格も、能力も、条件も何にもない」
と言い得る現実が厳然と存在します。

無論、上場企業の取締役になるには、会社で何十年もがんばって働いて認められ、また
「株主総会での選任」
という緊張を強いられる通過儀礼を経由することが必要となりますが、
「学歴・経歴・資格・試験等一切関係なくなれる」
ということには変わりありません。

実際、上場企業において入社半年くらいの暴力団関係者が突然取締役に選任されてしまうことだってありますし、同族系の上場企業においては、経営能力が全くない認知症の疑いのある老人が取締役として選任される例などもあります。

「重役」
とか
「社長」
とかいうと、なんだか非常に高いステータスのように思われていますが、実態をよくわかっている人間がみれば、
「資格試験とか一切なく誰でもなれる」
という点で、一定の知的水準や専門能力の裏付けとはみなされません。

このように
「取締役」
というキャリアがいとも簡単に取得できてしまうせいか、
「キャリアを手にしたものの、どうしたらいいかわからず、途方に暮れる」という方
が多いのも、
「取締役」
というステータスを有する集団の特徴です。

そして、
「試験等一切なく誰でも入れる」
公立の初等教育機関において学級崩壊が起こり、トラブルが多発する(実際、開成や麻布や筑駒では「学級崩壊」が起こった、などという事例は寡聞にして知りません)のと同様、
「試験等一切なく誰でもなれる取締役」
やこのような
「『取締役』が強大な権限を有して動かす会社」
にトラブルが多発することになるのです。

次稿では、さらに分析を深め、取締役や会社をめぐるトラブルが生じる背景に迫ります。

(つづく)

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初出:『筆鋒鋭利』No.033、「ポリスマガジン」誌、2010年5月号(2010年5月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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