俗に
「ウソつきは泥棒のはじまり」
といいますが、そもそもウソをつくことは罪なのでしょうか。
まず、
「ウソつき」行為一般
を処罰する法律はありません。
すなわち、刑法のどこをみても、
「ウソつき一般=犯罪」
とする規定はなく、したがって、
「ウソをつく行為一般」
については何ら犯罪を構成しません。
考えてみれば当たり前です。
男性が誇張した武勇伝を語ったり、女性が年齢や体重を誤魔化したりすることまで逐一犯罪扱いされると、それはそれで社会がギスギスしたものになりますし、癌の告知など、真実を伝えることはかえって残酷な結果をもたらすことが想定される場合にはウソをつくことが積極的に推奨されることもあります。
このように、ウソをつくことは、原則、犯罪でも何でもないのです。
無論、
「ウソをつく行為が犯罪になる場合」
というのもあるにはあります。
「ウソをつく行為が犯罪になる場合」
として、刑法上、詐欺罪、偽証罪、虚偽告訴罪、偽計業務妨害罪などが定められています。
また、最近有名になった事例としては、著名ITベンチャー企業社長が牢屋にぶち込まれる際の理由や、大手自動車会社の外国人元会長(その後、母国へ逃亡)が問擬された犯罪として有名となった有価証券虚偽報告罪も
「ウソをつく行為が犯罪になる場合」
の1つです。
とはいえ、これらの犯罪は、いずれも単純な
「嘘つき行為」
を捉えて犯罪視しているというものではありません。
ウソつき行為が犯罪とされる場合については、いずれの場合も行為者に特定の身分や主観を要求したり、嘘をつく際におけるさまざまな状況を限定した上で(これら行為者の主観や状況に関する条件は、法律の世界において「犯罪構成要件」と言ったりします)、きわめて例外的な状況の下でしか犯罪扱いされない形になっています。
要するに、
法律上
「ウソつきは犯罪ではない」
という大原則の下、
「ごく限られた状況におけるウソつきのみ、例外的・限定的に犯罪とする」
という扱いしかされていないのです。
小さいころ、われわれは
「嘘つきは泥棒のはじまり」
などと繰り返し教えられ、あたかも
「嘘つきは窃盗罪同様の犯罪行為であり、ウソをついていると処罰され、泥棒と同じように刑務所に収監されることになるぞ」
と、まるで脅迫紛いの話を聞かされ続けてきました。
これこそまさにウソの最たるものです。
正しい法律的理解を前提とすると、
「嘘をついても、何ら犯罪にはならない。だが、特定の身分において、あるいは特定の状況において嘘をつくと犯罪とされる場合もごく例外的にあるので、注意した方がいい」
というべきです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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