01608_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(11)_中堅中小企業が海外進出を成功させるには、オーナー経営者自らが直接乗り込むほかない

「海外進出という、もともと勝ち目の少ないアウェー戦を戦い抜くには、ラスボス(ゲームの最後に登場する、最強のボスキャラクター)が、当初から陣頭に立って、真剣に取り組む姿勢が絶対必要であり、そのことは歴史上証明された事実でもある」
ということを申し上げました。

そして、逆に、
「大将が、ラクをして、最前線や現場に出ることを忌避した挙句、悲惨な負け方をした例」
も歴史上多数存在します。

関ヶ原で大惨敗を喫した西軍総大将の毛利輝元、大阪の陣で徳川家康に完膚なきまでに敗北して滅ぼされた豊臣秀頼、いずれのリーダーも、陣頭に立つことを忌避し、よく状況がつかめないまま、気がついていたらボロ負けしていた、という憂き目をみました。

これら総大将は、ともに、
「オーナーないし指揮命令の最終責任者たるトップが、安全なところに安穏と居座り、危険な最前線には、手下を派遣して、危険性の高い事業を担わせ、うまく行ったら、その成果のみ手中におさめる」
などと、消極的で、プロジェクトそのものを甘く、軽く考えた態度でいたため、負けるべきして負けたわけです。

勝つべきリーダーは、勝敗にとことん執着し、細かなところまで他人任せにしませんし、そもそも自分の他人を一切信じません。

また、勝つべきリーダーは、
「無能な味方、敵より怖い」
ということを知っており、部下に接するスタンスは
「信じて、信じず」
「任せるが、警戒は怠らず、フォローはしっかりする」
というものであり、部下であっても根源的な部分での猜疑心は最後まで捨てません。

「過酷な敵情」

「無責任な部下の無能と懈怠」、
この
「2軸の潜在的なカウンターパート(仮想敵)」
ときっちり正対・対向し、二正面作戦を強いられる。

これが、組織のリーダーの立場です。

「自らが負担する想像を絶する責任をビビッドに理解認識し、その上で、最後まで気を抜かず、勝ち抜き、結果を手中にする」
というタイプのリーダーは、安穏とは無縁です。

「リスクも不確実性も高く、失敗したら財産はおろか生命さえ奪われる、戦争」
において、死ぬリスクすら顧みず、最前線に立ち続け、リアルな戦況報告を受け、刻々と変化する戦局を捉えて、融通無碍・臨機応変に、想定外や膠着した状況に非連続的な変化をもたらす戦術を試行(と錯誤)を繰り返すなどして、最後まで、すべての状況を自分が掌握・制御し、人任せを一切排し、己の能力や制御の及ぶ限り、力の限り、命の限り、闘い抜きます。

こういう観点からすると、
「ラクをして、最前線や現場に出ることを忌避し、安全なところに安穏と居座り、危険な最前線には、手下を派遣して、危険性の高い事業を担わせ、うまく行ったら、その成果のみ手中におさめる」
などといったナメた考えであった毛利輝元や豊臣秀頼が、ボロ負けしたのは当たり前です。

大阪冬の陣・夏の陣の事例でいいますと、
「すでに『征夷大将軍』を引退し、OB(大御所)となっているにも関わらず、駿府から出馬し、現役リーダー(二代将軍秀忠)に任せることなく、最前線に出張って、状況を直接把握し、作戦を立案し、指揮し、督戦し続けた、『徹底した現場主義』を貫いた徳川家康」
との比較において、
「結局、大阪城を一歩も出ず、全てを他人任せにした豊臣秀頼」
がボロ負けしたのは当然の結果です。

ビジネスもこれと全く同様であり、
「絶えず変化し、襲いかかるリスク情報を素早く察知し、不確実性を前提にした、試行錯誤の連続」
といった状況での戦いを日々強いられます。

ましてや、海外進出となると、
「住み慣れた土地でのホーム戦」
ではなく、
「言葉も、話も、常識も、理屈も、思いも、常識も、状況認知や解釈についてまで、これまでのやり方も全く通用しない、完全なアウェー戦」
です。

成功するためには、
「すべての責任と権限をもち、事態対処のための完全な自由裁量を有する、強烈な士気とインセンティブが与えられたリーダー」
が、戦略の修正、ゲーム・チェンジ、マイルストンの組み換え、ときには、設定した目標の変更すら適時・瞬時に行うことを休む間もなく継続し、ようやく
「戦いの体をなす」
というレベルです。

油断したり、気を抜いたり、
「任せてはいけないタイプのリーダーに丸投げ」
といった、商売をナメたことをやっていると、たちまち損失が増大し、事業継続が困難な状態に陥ります。

「こんな圧倒的な権限と裁量を前提とするリーダーシップ」
はプロジェクトオーナー、すなわち
「負けたら、即、命より大事なカネや会社を失う」
という痛い目と責任を担っている人間であるオーナー経営者以外存在し得ません。

他人任せにし、適当な報告を求め、快適な日本で
「隔靴掻痒」
の議論をして、遠いところから適当な指示を飛ばしたところで、指示が到達するころには、さらに状況が悪い方向に変化し、命令自体が陳腐になっている。

こんなことを繰り返しているうちに、たちまち失敗を重ね、最後は、這々の体で敗走することになるのです。

番頭・手代レベルに、元手を渡して、
「あんじょうやってこい」
という適当な指示で、成功を夢想する、なんてことをやっても、うまく行く道理がありません。

こういう言い方をすると、
「自分(オーナー経営者)が出て行くと、国内がおろそかになるので無理だ」
「『命を賭して、完全に成し遂げる強靭な意志と、成功時に得られる莫大なインセンティブと、平然かつ冷静にやり抜くスキルと、自然と被支配者がひれ伏す強烈なオーラと、悪魔の手先のような性根と、常に、エレガントに振る舞える典雅さをもった人間に、法律はおろか神をも恐れぬやりたい放題の裁量を与える』といった海外事業責任者が必要というのはわかるが、そんな、自分でもできないようなことをやってのける人間は、社内のどこにも見当たらないし」
と、言い訳をはじめ、遂には、
「ああ、どうしよう! 我が社は海外進出できない! もう、八方ふさがりだ!」
と頭を抱える中小企業オーナーがよくいらっしゃいます。

じゃあ、どうすればいいのか?

答えは、実に簡単です。

初出:『筆鋒鋭利』No.103、「ポリスマガジン」誌、2016年3月号(2016年3月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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