01609_企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト(12)_「海外進出を成功させるための人材」に欠如した中小企業が採るべき代替戦略

「自分が海外に行くわけにはいかないし、自分の分身として責任をもって海外で一旗挙げてくれるようなスキルと意思をもった人材にも恵まれない中小企業」
が、最後には、
「ああ、どうしよう、我が社は海外進出できない。どうしよう」
と嘆息することが多い、という実情が存在します。

では、そんな中小企業として、海外進出プロジェクトについて、どのようにして対応すればいいのでしょうか?

答えは実に簡単です。

1 海外進出自体やめてしまう

進出などやめてしまえばいいのです。

ある事業にリスク課題があって、制御不能・管理不能なリスクが残存し、かつそのリスクが発現した場合、大きすぎて、企業の生命すら奪いかねない場合、もっとも端的なリスク管理方法は、当該事業をやめてしまう。

これに尽きます。

誰かが、
「そんなに無理をしてまで、大変な思いをし、会社を破綻させるリスクを冒してまで進出しろ」
といって進出を強制しているわけでもありません。

わざわざ苦労とリスクを背負い込んでまで、アジアくんだりになど進出などしなくてもいいんです。

2 生産活動の効率化をしたいなら、廉価な人件費を求めて海外進出するより、FAやICT(DXやAIやRPAを含む)を研究して導入する方がはるかに有益

国内で地味に努力して、生産活動を工夫したり、商売を広げたりできる余地はいくらでもあります。

例えば、AIやRPAを導入すれば、ホワイトカラーの生産性は劇的に改善されます。

トップがDXを理解し、ICTリタラシーを向上させ、さらにいえば、PCとスマホを使いこなすだけで、経営管理機能を担う人員は大幅に不要となるはずです。

生産工程の見直しとFA化の推進をすれば、
「言葉も通じない、話も通じない、思いも通じない、規律に無縁で、誠実で堅実なカルチャーとは無縁な、俗悪と無作法をはびこらせるかもしれない方々」
と無駄に付き合ってカネと時間とエネルギーを喪失するよりはるかにメリットがあると思います。

結局、AIやRPAの導入以前の技術特性把握、DXの理解、ICTの習熟とか、生産工程の見直しとか、そういった地味な作業を忌避し、
「アジア進出!」
という壮大な妄想を華々しく展開することによって、
「何かワクワクするようなことをしたい」
「これで一挙に大逆転したい」
という愚劣で幼稚な発想にもとづき、日本の多く残念な中小企業と、そのような企業を経営する残念な社長が、哲学も展望もシビアな計算もなく、大量にノコノコとアジアに出かけて行っては死屍累々となっている。

これが、生産拠点をアジア諸国に移転しようとして大失敗する愚かな企業における根本原因です。

3 営業・販売を拡大したいなら、いきなり海外進出するのではなく、現地提携先を調査発見し、パートナーシップ戦略・アライアンス戦略を試行してみる

営業や販売についても同様です。

これまで、製造業においては、ほどほどの品質を大量に市場に流し込み、市場でシェアを獲得し、その後、商品力で競争力優位を築いていく経営、すなわち
「プロダクトアウト」型
の経営戦略が、オーソドックスな戦略とされてきました。

しかし、市場がグローバル化し、また、
「ドッグイヤー」
「マウスイヤー」
といった経済スピードの加速化が常識となり、
「大量に出回る、ほどほどの品質の商品」
は、おどろくほど早く陳腐化し、海外から、
「ほどほどの品質と、冗談のような廉価な商品」
が押し寄せてくるとひとたまりもありません。

国内の販売不振が続くと、ついつい
「海外にいって一旗挙げて、リベンジだ」
と安易に考えてしまいがちです。

無論、ルイ・ヴィトンやエルメスやブルガリなど、すでに世界的ブランドとして知名度を確立している商品であれば、
「進出後短期間に相当大きなボリュームの売り上げを立てる」
ということも合理的に期待できます。

しかしながら、
「『日本国内ですら知名度がなく、誰も買ってくれないような商品』しか作っていないような企業が、言語も文化も違う国の市場でいきなり知名度を獲得し、バカ売れして大成功する」
というのはまず不可能です。

結局、日本ですらロクに知名度がない陳腐な商品しか作れない陳腐な中小企業が、コンサルティング会社や現地コーディネーターの口車に乗せられて現地法人を作った場合、結構な額をスってしまい、現地法人を1~2年で解散・清算する、ということが多いようです。

国際的にビジネスを展開したいのであれば、何も現地法人を作って、いきなり拠点を作って遮二無二進出する必要などありません。

現地法人を作るということは、現地の言語に基づき、現地の会計基準と現地の法律にしたがった法的書類と会計書類と税務申告が必要ということを意味しています。

しかも、この煩雑でコストのかかる手続きは、会社を解散して清算するまで、未来永劫続きます。

これだけですでに莫大な費用と手間とエネルギーを消耗しますが、投下した多額の投資を回収するには、相当大きなボリュームの売り上げを立てる必要があります。

自らは日本国内に拠点を置いた状態で、現地のチャンネルを有する現地企業と販売先や代理店として契約し、そこと緊密に提携しながら、市場にチャレンジすれば、リスクもコストも労力も少なくて済むはずです。

4 営業・販売を拡大したいとしても、同じ戦略や戦い方で安直に戦場を変える前に、今一度、戦場や戦局を見直し、戦略を再定義し、戦法を再構築してみる

さらにいえば、国内でもまだまだ生き残れる方法があるかもしれない。

市場における顧客のニーズに併せてモノ作りをしたり、さらにいえば、モノにサービスを加えた、顧客の要望を叶える高付加価値なソリューション(もの作り+おもてなし)提供していくこと、すなわち
「マーケットイン」型
の経営戦略に真剣に取り組めば、いくらでも生き残れる場所が見つかるかもしれません。

5 マルドメ企業(まるでドメスティックな企業)が海外進出を夢みてしまうのは、コンプレックス(劣等感)克服が原因の可能性

頭とセンスを地味に酷使するような戦いを忌避し、見た目だけ派手にみえる
「海外に打って出る、壮麗なアウェー戦」
を挑んだものの、地の利の不利が災いして、ボロ負けし、会社の生命を縮めてしまう、というアホな失敗をなぜ多くの企業をやらかすのか。

自分が
「国内において地味で広がりのない事業をやっている」
ということに強いコンプレックスをもっている中小企業の社長の方々は、“国際事業”や“海外進出”や“現地法人”といったキーワードに弱く、意味なく無駄なことをしがちだからだと推測します。

また、海外事業の経験がない素人ほど、
「海外で事業を行えば、どんなバカでも大成功するはずだ」
という根拠のない妄想を抱き、
「地道な経営改革より見た目な派手なバクチで会社を劇的に改善できるのではないか」
と甘い夢をみがちなのです。

こういう背景もあり、
「丸ドメ(まるでドメスティックな・純粋国内指向の)事業を、ド根性と勢いで立ち上げたが、海外経験なく、総じて視野が狭いタイプの社長」
が、国内においてなすべき課題が山のようにあるにもかかわらず、海外に異常な期待を抱き、コーディネーターやコンサルティング会社などの口車に乗せられ、海外進出話にオーバーコミットしてしまい、結果、会社を重篤に危機に陥れてしまうのです。

「コンプレックスのある、成り上がりの、幼稚なオーナー経営者が、誇大妄想的に海外に進出して痛い目に遭う」
という話は、朝鮮出兵や明王朝の征服といった妄想を抱いて大失敗した豊臣秀吉の時代から変わりません。

6 イタい膨張政策より、堅実な引きこもり戦略・穴熊戦法を再考してみる

ですので、豊臣秀吉のようにイタい膨張政策で晩節を汚すより、徳川家康のように
「引きこもり」「穴熊」戦略
で、地味で堅実に内部の地盤固めをすることが、企業を長く存続させる秘訣なのかもしれません。

初出:『筆鋒鋭利』No.104、「ポリスマガジン」誌、2016年4月号(2016年4月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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