1 「究極の一品モノ」でオーナーの「愛着」が半端ない「売買対象物としての『企業』」
企業は、そこらへんの市場に
「日用品」
として転がっているわけではなく、経営者が丹精込めて作り上げ、育て上げた、
「究極の一品モノ」
です。
当然ながら、手放す方は、愛着がありますし、ちょっとやそっとでは手放してくれません。
絵画や彫刻などの美術品なら、持っているだけで、たいしたメンテナンスをしなくても傷んだり、減価したりしません。
しかし、企業は、経営者がものすごい労力や精神力を投入して生かし続けないと、たちまち、市場から見放され、赤字をまきちらし、社会のお荷物になります。
経営者も若い間はいいですが、歳をとって、体が大変になってくると、企業メンテナンスするだけでも大変になってくる。
こうやって、
「愛着はあるが、持っているのは大変」
という状況をズルズル続けているうちに、企業が客からも市場からも見放され、劣化していき、最後は、倒産という恥さらしを回避するため、身売りを選択する状況に追い込まれます。
2 身売りのための「売り物」を安値で買い叩く側面をもつM&A
M&Aという取引の手段ないし方法は、まともな使われ方をする場合もありますが、現在においては、ほとんどの場合、廃業回避や事業承継や、さらには倒産処理方法の1つとして機能しています。
ある企業が倒産しそうになっており、完全に死ぬ前にどこかに安値で引き取ってもらいたい。
「身売り」
というと聞こえが悪いし、
「企業を産み、育ててきた、愛着というか執着というか怨念じみた感情」
に支配されたオーナー経営者が
「倒産」
という恥さらしの終わり方では納得しないし、話が進まない。
じゃあ、
「M&A」
というハイカラな言葉でごまかしてしまえ。
行き詰まっている企業にM&A話が出てくるとすれば、こんな状況が考えられます。
とはいえ、
「便所」
のことを
「お手洗い」
と言い換えたのと同様で、品のいい言葉を使ったからといって、便所で行う行為が、華麗で美しいものになるわけではありません。
いろいろ外来語でごまかそうとしても、やっていることの本質は、
「身売り」
を前提とした買いたたきと、買いたたきを前提とした実地調査です。
買いたたこうとしている側は、対象企業の社長が
「バカで舞い上がり易いタイプ」
であると見ると、華麗な言葉で、当該社長が調子に乗るようにし向けていきます。
そして、バカが舞い上がっている間に隙をついて、情報収集し、値踏みし、選択肢を巧妙に減らしていき、精神的に支配していきます。
そして、にっちもさっちもいかなくしてから、徹底的に買いたたき、身ぐるみ剥ぎにかかるのです。
見たこともない連中(たいていは偏差値が高そうで、いいスーツを着こなし、バカ高いネクタイをぶら下げている)がうろちょろして、書類をコピーしていき、社長がやたらとM&A用語を使いだすときは、
「M&A」
という名の
「身売り」
が進んでいると見ていいかと思います。
3 買う側としても失敗の可能性が高いM&A
また、企業がM&A話をもちかけられている場合も問題です。
M&A(合併・買収)が、失敗例が相当数あることはあまり知られていません。
正確な調査をしたわけではありませんが、私の感覚では
「M&Aの失敗例は、芸能人の離婚率とだいたい同じ比率なのではないか(おそらく90%近くが失敗)」
と思います。
ちなみに、古いものですが、日経新聞(2011年4月28日朝刊)によると、世界の歴代金額上位3件は、いずれも買収成立から数年以内に数兆円単位の損失が生じている、とのことです。
また、同記事によると、特に、加工型製造業やサービス業といった川下産業の大型M&Aは、 川上産業に比べて買収後の経営統合作業が複雑になる面があり、失敗する場合が多いそうです。
初出:『筆鋒鋭利』No.0106-1、「ポリスマガジン」誌、2016年6月号(2016年6月20日発売)
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所