01641_法律相談の技法7_初回法律相談(1)_事実ないし状況及び経緯の確認とストレステスト

初回法律相談は、相談者から、まず事実ないし状況及びこれらに至る経緯を確認し、重要な事実については痕跡(資料等文書として存在する証拠)の有無を確認することから始めることになります。

「事実ないし状況及び経緯の確認」
というと、
「困っていることやそこに至る経緯について、相談者に思い出してもらい、しゃべってもらうだけ。だから、簡単なプロセスだ」
と安易に考えられがちです。

しかし、このプロセスすら、相当な負荷のかかる営みとなることを想定しなければなりません。

もちろん、
「確認すべき事実の精度(あるいは密度ないし粒度)」
ですが、
「初回相談のゴール(初回相談において到達すべき目標)は、大まかな態度決定(詳細な作戦計画や動員資源見積もりのためのさらなる時間とコストと労力を追加投入するべきか否か)を行うことにある」
という点から、
「法律実務に照らした経験則に基づく大まかな展開予測が可能になる程度のざっくりとしたもの(ラフなもの)」
で差し支えありません。

とはいえ、重要な点を含め、ある程度の事件の顛末は把握しないと、大まかな態度決定すらできないことになります。

したがって、初回相談実施前に、
「事実」ないし「状況」及びのその前後の経緯
について、相談者の宿題(相談実施前に準備いただくべき事務的準備課題)として、
・時系列で、5W2Hの各要素を含む形で、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化をさせる(知覚し、記憶した内容を、言語として表現して、文書としてアウトプットする)
・関連する資料・文書をすべて探し出し、時系列にしたがって整序させる
ことはきっちりしてきてもらう必要があります。

これは、
「初回相談における貴重な時間を無駄にしない」
という点において必須のプロセスですので、
「宿題を忘れました」
などという事態が発生しないよう、しっかりとやってきてもらうべきです。

もちろん
上記「宿題」
をある程度やってきてもらえれば概ね
「事実ないし状況及び経緯の確認」
は把握できますので、初回相談において対面で直接行う
「事実ないし状況及び経緯の確認」のプロセス
で何をやるか、といいますと、
・相談者にブリーフィングをして要領よく事実ないし状況及び経緯について理解を深めることと、
・言語化・文書化が不可能あるいは困難な、行間情報や非記述情報を中心に、口頭の応答によって補完・補充し、事件に関連する事情をよりビビッドに共有する
という点に注力することになります。

このように申しますと、
「何だ、そんなことか。簡単じゃないか」
と思われ、あたかもイージーでカジュアルなプロセスのように考えられがちですが、実際は、相談者で、
「この『事実ないし状況及び経緯の確認』プロセスをまともに遂行できる能力がある人は、ほとんどいない」という現実
を、弁護士も相談者も理解しておくべきです。

官僚や弁護士や新聞記者や文筆家といった、日常的に、事態や状況を5W2Hの各要素を含む形で、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化をさせる(知覚し、記憶した内容を、言語として表現して、文書としてアウトプットする)という知的作業に慣れている知的専門家は別として、
「そうでない一般の素人の方」
は、そもそも、
「認識内容や記憶した内容を言語にし、文書化する」という営み
が、しびれるくらい不得手で、下手くそです。

さらに言えば、人間全体の傾向として、
「過去のことを細かく思い出し、客観的に叙述する(印象やイメージとしてアバウトに思い出すのではなく、5W2Hの要素を含む客観的事実として想起する)こと」自体、
非常に苦手であり、そんな営みを行うこと自体苦痛に感じます。

例えば、
「5日前の昼飯のこととかって覚えています? 誰と、どこで、どのメニューを注文し、どの順番で、どんな話をしながら食べたか? 食後のデザートに何を選んだか? 飲んだのはコーヒーか紅茶か、レモンかミルクかストレートか、おかわりをしたか? おごったか、おごられたか、割り勘にしたか、傾斜配分にしたか? 勘定はいくらだったか?とか、覚えていますか?」
と言われて、すらすら答えられるような方は皆無だと思います。

筆者は、別に認知機能に問題なく、東大文一に現役合格する程度の暗記能力・記憶力は備えていますが、自慢ではありませんが、
「5日前の昼飯のこととか、そんなもん、いちいち覚えてるわけないやろ!」
と胸を張って言えるくらいです。

といいますか、仕事の関係で、食事は不規則であり、忙しくて昼飯をすっ飛ばしたり、朝食ミーティングがあれば、夜まで食べないこともあるので、昼飯を食べたかどうかすら、いちいち覚えていません(何度も言いますが、認知機能に問題があるわけではなく、あまりにどうでもいいというか、くだらないことなので、覚えていないのです)。

もちろん、
「がんばって5日前の昼飯のこと、思い出せ」
と言われれば、思い出せないこともありません。

それなりに、認知機能もありますし、記憶力や暗記力も平均以上だと思いますので。

スケジュールを確認し、前後の予定や行動履歴を、メールや通話記録をみながら、記憶の中で復元していき、手元の領収書や店への問い合わせや店が保管している記録を前提に、一定の時間と労力を投入すれば、状況を相当程度再現していくことは可能であり、さらに時間と労力を投入すれば、これを記録として文書化することもできなくはありません。

とはいえ、それをするなら、投入する時間や労力をはるかに上回るメリットがないと、こんなくだらないことに0.5秒たりとも関わりたくありません。

もともと、人間のメンタリティとして、
「過ぎたことは今更変えられないし、どうでもいい。未来のことはあれこれ悩んでも仕方ないし、考えるだけ鬱陶しい。今、この瞬間のことだけ、楽しく考えて、生きていたい」
という志向がある以上、
「過ぎ去ったことを調べたり考えたり、さらには、内容を文書化したりする、なんてこと、あまりやりたくない」
という考えは実に正常で、健全といえます。

すなわち、
「がんばって5日前の昼飯のこと、思い出せ。思い出して、文書化できたら30万円あげる」
と言われたら、ヒマでやることないし、あるいは期限や他の予定との兼ね合いをみながら、少し小遣いに困っているなら、その話を受けるかも、という感覚です。

要するに、
「自ら直接体験した事実ないし状況及び経緯の『想起』レベル」の営み
すら、困難で相当な負荷のかかるものなのです。

加えて、さらに、想起した内容を、言語化・文書化するとなると、慣れていないいうこともあり、おそろしく時間がかかるか、できたとしても非常に貧弱で、口を酸っぱくして宿題をきちんとやって来いと指示しても
「どういう起承転結で顛末なのか、さっぱりわからない代物を持ってくる」
という事態が普通に生じます。

以上のような負荷や困難をきちんと踏まえながら、 相談者には、
「事実」ないし「状況」及びその前後の経緯
について、相談者の宿題(事前課題)として、
・時系列で、5W2Hの各要素を含む形で、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化をさせる(知覚し、記憶した内容を、言語として表現して、文書としてアウトプットする)
・関連する資料・文書をすべて探し出し、時系列にしたがって整序させる
ことをきっちり仕上げてきてもらい、これに基づき、どういう顛末であったか、その概要を把握します。

では、相談者から事実ないし状況及び経緯を、宿題の成果であるファクトレポートやヒヤリングによって聞き出せれば、それを所与として次のプロセスに移行して問題ないか、というと、そういうわけにもいきません。

相談者が叙述する内容を、額面通り受けとるのは非常に危険なことであり、必ず、
・相談者が叙述する内容は事実であり、発生した事実と齟齬はないか
・仮に事実として、裏付けがあるか
の2点についてストレステストを加えておく必要があります。

すなわち、
「相談者が書いてきた、あるいは相談において述べる事実ないし状況及び経緯」なるもの
も、
「事実と程遠いものである蓋然性も相当ある」という現実
を踏まえて、警戒と疑念の気持ちをもって確認・検証しておくべき必要があるのです。

ストレステストの実践、言い換えれば、
「相談者の叙述する事実ないし状況及び経緯は、本当に存在するのか。見間違いや、記憶違いや言い間違いや筆や口が滑って齟齬があるのではないか。あるいは、事実とは違うのではないか」
という疑いをもって、その真否や信用の程度を確認していくことになります。

こういう言い方をすると、
「お互い、日本人同士、言葉が通じるし、話は通じるし、状況認知に齟齬など生じようもないし、相談者がウソをつくはずなどない。ストレステストとか、そんな必要ないだろう。それはいくらなんでも信用しなさすぎではないか。そんなに疑ってばかりいれば、先に進まない」
などと考えがちです。

しかしながら、相談者の語る「事実」ないし「状況」の各プロセス、すなわち
・知覚(→見間違い、聞き間違い、噂話を自己体験と取り違える可能性)
・記憶(→記憶違い、記憶の上書き、不名誉な事実や不愉快な事実を身勝手に忘却する可能性)
・表現(→言い間違い、大げさな形容をして実体と異なる表現をする可能性)
・叙述(自己正当化・自己保存のため、誇張や不名誉なことを隠蔽したり誤魔化したりして、全体として事実と違う話をする可能性)
の各過程に、上記()内に示したような過誤が介在する可能性が常に生じます。

また、相談者の語る
当該「事実」ないし「状況」
が、真実そのとおり存在したとしても、
・痕跡(記録、証拠資料等)が存在する「事実」ないし「状況」と、
・痕跡が存在しない「事実」ないし「状況」
とでは、法律実務上、当該事実の取り扱われ方ないし価値(信用性)が異なるので、この点もきっちりと確認しておくべき必要が生じます。

特に相手と認識に隔たりが出るであろう
重要な「事実」ないし「状況」
について、裏付けとなる痕跡があるのか無いのかという点を確認しておく必要があります。

さらにいえば、
「『相談者の語る事実ないし状況及び経緯』と全く逆の『事実ないし状況及び経緯』を示す痕跡」
が存在しており、しかも、それが相手の掌中にある、という事態があるのかという点についても、しっかりと確認しておく必要があります。

こういう場合、相談者は
「先生、こんなの形だけなんです。事実と違うんです。全くのウソなんです。こんなウソ通るわけないですよね。相手も、形だけの領収書を示して、お金は返した、なんてまったく虚偽の事実を裁判で述べるなんで、そこまで恥知らずのことをしてこないでしょう」
ということをいいますが、
そもそも裁判は
「客観証拠に反しない限り、ウソは付き放題、何でもあり」というゲーム
であり、当然ながら、相手は領収書を振りかざして平然とウソを真実として主張してくると想定されます。

例えば、話の上では、債務は弁済していないのに、書類上・形式上は、相手方に協力するため、
「形だけ」
と言われて領収書を作成して、相手方に渡してしまっている、という状況です。

そうなると、相談者が申し述べる
「債務は弁済していないのに、書類上・形式上は、相手方に協力するため、『形だけ』と言われて領収書を作成して、相手方に渡してしまった」
などという話は、裁判においては、寝言あるいはウソ、妄言と扱われます。

この場合、
「相談者が平然とウソをつく、ゴミか汚物のようなどうしょうもない人間」
と裁判上確定することは火を見るより明らかです。

前述のとおり、
「体験ないし認知した事実ないし状況及び経緯を、時系列で、5W2Hの各要素を含む形で、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化をさせる(知覚し、記憶した内容を、言語として表現して、文書としてアウトプットする)」
という至極簡単なタスクも、
1 知覚段階において、見間違い、聞き間違い、噂話を自己体験と取り違える可能性
2 記憶したものを想起する段階において、記憶違い、記憶の上書き、不名誉な事実や不愉快な事実を身勝手に忘却する可能性
3 言語化(表現)する段階で、言い間違い、大げさな形容をする可能性
4 文書化(叙述)する段階で、自己正当化・自己保存のため、誇張や不名誉なことを隠蔽したり誤魔化したりして、全体として事実と違う話をする(平たく言うとウソをつく)可能性
がそれぞれ存在します。

したがって、相談者の叙述する事実経緯等も、ストレステストを加えながら(疑ってかかる姿勢で)、確認していく必要があります。

その際、相談者が持参してきた痕跡資料が有力な手がかりとなります。

相談者が言っている内容と、痕跡である証拠資料との間に齟齬があったり、両者がまったく反対の内容となっていたりする、という状況は頻繁に生じます。

相談者の話を鵜呑みにせず、むしろ、
「相談者は、自己正当化・自己保存のため、あるいは何とか相手に優位に立ちたい、裁判で勝ちたい、専門家から色よい見立てをもらいたいという、歪んだ感情から、息を吐くようにウソをつく」
くらいに思いながら、斜に構えて聞いておく方が、誤った事実認識・状況認識に陥る危険性を排除できます。

事実認識や状況認識が誤っていれば、三段論法の小前提が狂っているわけですから、どんなに正しい法律や解釈論を展開しても、狂った帰結、間違った結論しか出てきませんし、結果、苦しむのは弁護士本人です(もちろん、相談者も被害を受けます)。

以上が
「事実ないし状況及び経緯の確認とストレステスト」のプロセス
となります。

一見すると簡単なようですが、結構タフで神経を使う営みである、といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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