01664_企業法務スタンダード/企業法務担当者(社内弁護士)として実装すべき心構え・知見・スキル・仕事術、所管すべき固有の業務領域(7)_批判的思考・分析的考察と選択肢抽出とジャッジ

「法務担当者に期待される、他の社内関係者と決定的に違う、発想や思考手順」
ともいうべきものが存在します。

これは、批判的思考や保守的想定といわれるものです。

人間には、生来的に、思考の偏向的習性として、楽観バイアスや正常性バイアスといわれるものが備わっています。

特に、社長以下経営陣(企業の首脳陣)は、リスクをとって収益を上げて(前向きに積極的にイケイケドンドン金儲けをして)企業のゴーイングコンサーンを実現するという役割と責任を担っていますので、他の一般社員より、はるかに、大胆で、楽観的で、冒険的である傾向や習性が強いことが一般です。

このような意思決定に対して、安全保障面からの支援をする法務担当者としては、批判的思考や保守的想定の下、法的ストレステストを行い、より、事業実現を安全かつ完全にするようなチューンナップをすることを求められます。

勘違いすべきでないのは、単なる評論家であってはならず、批判に終始せず、必ず、対案や代替案や予備案(Bプラン、プランB)も含めた建設的な提案をすることが求められます。

リスクがあるから、顧問弁護士を味方に批判を展開するだけでプロジェクトを潰す、という受動的な役割に終始するようでは、何のための法務部か、と叱責されます。

また、顧問弁護士等の社外の専門家は、ビジネスの専門家でも、あるいは金儲けをしたことのないビジネスのアマチュアですし、加えて、信用維持と保身を考えて思考習性と行動偏向として予防線を貼ることが多いので、顧問弁護士に安易に意見採取をしても、
「社内の法務部として求められている、果たすべき役割」
を全うすることはできません。

また、法務担当者は、単に、不安や警戒を述べるだけでは、役割を果たせません。

よく、法務の対応や勧告として、
「コンプライアンス的にNGです」
「法務としてはリスクがある、といわざるを得ません」
という抽象的でわかったようなわからないような助言が見受けられますが、これは、
「よくわからないからやめといたら」
「ダメ、ダメ。これ、女の勘」
「方角が悪いからやめといたほうがいい」
「風水的によくないんじゃない」
という
戯言と同様、まったく中身がなく、社内サービス部門たる法務としての価値ある責任ある活動とはいえません。

・具体的に何法の何条に該当し、
・過去にどういうリスクが具体的に実例としてあり、
・どのようや危険あるいはリスクがどのくらいの可能性と現実性で想定されるのか、
・当該リスクは壊滅的なものか対処可能・制御可能なものか、
・リスクの転嫁方法・回避方法・回避方法としてどのようなものが考えられそれぞれどのようなプロコン(長短所)があるのか、
・ビジネスモデルをマイナーチェンジして規制適用を回避する方法はあるか、
・単なる法令解釈の問題で未だ適用例がないならノーアクションレター等を検討できるか、

等々、批判して安易な中止勧告をするのではなく、徹底した分析思考をもって、ビジネス実現のための知恵を絞るのが、顧問弁護士等社外弁護士ではない、社内の法務担当者こそが期待されている役割と責任です。

また、事件処理や事故対応や有事(存立危機事態)対処といった、
「正解なき予定調和なきプロジェクト」
については、もちろん正解がないことは仕方ないとしても、最善解や現実解は想定されるはずです。

そして、最善解や現実解(ゴール)を設定した後は、
「現時点(スタート)」

「ゴール」
の間に存在するありとあらゆる課題やリスクをすべて批判的思考で抽出します。

次に、このすべての課題やリスクこれを乗り越えるための選択肢を、これもイマジネーションの及ぶ限り、極論や非常識なものも含めて、あらゆるものを一切合切抽出することが求められます。

そして、各選択肢について、偏見を加えず、時間・コスト・労力・確度・精度・可変性や冗長性といった各点からの長短所の評価(プロコン評価)を加えていきます。

しかし、法務担当者の仕事と責任はここまで、です。

最後のジャッジは、他ならぬトップの役割と責任において行なわれるものです。

法務は、トップが豊富な選択肢からより自由に選択できるようにするためのお膳立てを行うことがその所掌範囲です。

現アメリカ大統領のトランプ氏は、外交課題や安全保障課題等、難しい課題、すなわち、正解がない課題の対処に際して、よくこういう言い方をします。

「すべての選択肢はテーブルの上にある」
と。

これこそが、安全保障という点でも超一流国家アメリカで行なわれている、
「世界でもっとも洗練された、トップとこれを支える安全保障専門スタッフの役割分担のあるべき姿」
を端的に言い表しています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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