企業のほとんどは、
「株式会社」
という組織形態を採用しています。
ここで、
「株式」「株券」「株主」「株主総会」
という基本的概念を整理・把握すると同時に、
「株式会社」
という制度インフラの根底に存在する
「所有と経営の分離」
という組織統治理念について解説いたします。
まず、
「株式」「株券」「株主」
についてです。
株主とは、株式を有する人間
を指します。
もちろん、個人の場合ももちろん、法人が株式を有することも可能です。
ある株式会社が、別の株式会社の株式の一定割合以上を有して、支配的地位を有する場合があります。
典型的な事例は、
「チャイルド株式会社(仮称)」
の発行済株式総数の全部(100%)を
「ペアレントホールディング株式会社(仮称)」
が株主として所有する場合ですが、こういう場合を、
「ペアレントホールディング株式会社(仮称)」を親会社、「チャイルド株式会社(仮称)」を子会社とする親子関係、
などといいます。
ここで、
「株式」とは何か、
ということになりますが、株式とは、
株式会社のオーナーシップのことであり、株式会社に共同出資した出資者たる地位や権利を、均一に細分化された割合的単位として表したもの
です。
では、株式を持った個人ないし法人、株主は、
「株式会社に共同出資した出資者たる地位や権利」
に基づき、どんな権利や地位を有し、どんな責任を負うのでしょうか。
株主の地位ないし権利として、もっとも重要なものは、
株式配当を受け取る権利
です。
株主は、株式会社の共同オーナーであり、何のためにカネを払って、共同オーナーになったか、というと、当然ながら、儲けるためです。
すなわち、株主が出資した資本金を使って、株式会社がヒト・モノ・カネ・チエといった経営資源を調達・活用して、製品や商品や役務提供体制といった価値を創出・蓄積し、これを営業活動によって、カネに変え(収益として実現し)、利益を生み出します。
こうして獲得した利益を、出資者である株主に対して、定期的に損益計算を行って、配当として還元していきますが、このとき、株主は、その地位に基づいて、株式配当を請求することになるのです。
また、株主の地位ないし権利として、会社経営の基本的事項について、自己主張をする機会が与えられます。
すなわち、少なくとも年に一度定期的に、あるいは、特別の事情がある場合、不定期かつ臨時に開催される、株主総会において、株主は、意見を述べたり、説明を求めたり、取締役や監査役を選ぶ場面において、当該選任決議において、株式の保有割合に応じた多数決投票において、議決に参加することが保障されています。
他方で、株主、すなわち、
「株式会社に共同出資した出資者」
としては、どんな責任を負うのでしょうか。
株主は、一般に、「間接有限責任」を負う、
とされています。
株主は、株式会社の共同オーナーではありますが、株式会社の債権が焦げ付いても、株式会社の債権者から直接取り立てのために追い回されることはありません。
株主は、株式会社という法律上別人格の存在を通してしか債務の負担を負わないからであって、これが
「間接」的にしか責任を負わない、
という意味です。
また、株式会社が債務超過になって破綻して、破産等をしたとしても、株主が債権者から、焦げ付いた債権について責任を負うこともありません。
ただ、株式会社が破産して法人格が消滅したら、株主の有する株式は無価値となり、出資した金銭が消失しますが、逆にいえば、出資した限度でしか責任を負わず、それ以上、ビタ一文債務や責任を負うことはありません。
これが、
「有限責任」という意味
です。
01716でもお話しましたが、
法律上「有限責任」とは、事実上・社会上は「無責任」と同じ
です。
有限責任法人を、海外では、LLC(リミティッド・ライアビリティ・カンパニー)というものとして存在しますが、LLCの資本金で1ドルとか1000ドル程度のところは結構存在しますが、
「10万円程度の損」
さえ覚悟すれば、どんなに大それた負債を作っても、株主には責任がない、ということを意味しますので、
「有限責任法人」とは、まさしく「無責任法人」
ともいえます。
ところで、株式と似たような概念として
「株券」
というものがありますが、これは株式の内容を記した有価証券であり、かつては、株券がたくさん出回っていました。
しかしながら、時代の変化に伴う法改正によって、株券を発行しない株式会社(株券不発行会社)が原則的形態となったことから、最近では、ほとんどみかけなくなっています。
では、株券なしで、どうやって
「自分は株主だ」
ということを証明するか、というと、株式会社が整備する株主名簿への搭載によって確認するシステムとなっています。
最後に、
「所有と経営の分離」
の話をいたします。
私が、トヨタ自動車株式会社の100株の株式を市場で購入し、同社の100株の株主になったとしましょう。
当然ながら、私は、トヨタ自動車株式会社の共同オーナーです。
そこで、私は、トヨタ自動車本社に出向き、
「自分はこの会社の社主だ、オーナーだ、控えよ」
と騒ぎ、いきなり社長室に上がり込み、社長室秘書にコーヒーもってこい、と命令しだし、さらには、取締役会が開催されているところに入っていて会社の方針を指示命令しだしたり、あるいは、目についた文房具やノートパソコンといった会社の備品を、
「オレはオーナーだから持って帰っていいだろ」
と言い放って、持って帰ろうとしたとしましょう。
これは許されるでしょうか?
もちろん、こんなことをしたら、間違いなく警察に通報され、犯罪者として逮捕され、起訴され、有罪判決を受けることになります。
株主は、「株式会社に共同出資した出資者」
ではありますが、
所有と経営は、まったく別物として分離
されており、
株主がオーナーシップを発揮して経営に参加する機会は、株主総会における議決権等に限定
されているからです。
すなわち、
株主が会社経営に口を出せるのは、唯一、
「株主総会」
という定期・不定期に開催される会議体の場に限定
されているのです。
オーナーシップとマネジメントを分離することにより、
「経営の知識や経験やスキルがないし、経営責任を負担する覚悟もないが、小銭なら出せる」
という多くの一般人を資本家として会社運営に参加させ、他方、株式会社の経営は、
「素人でも小銭を出して株さえ変えれば誰でもなれる株主」
に任せるのではなく、株主総会が、株主であるかどうかにかかわらず、資本的多数決で選んだ
「経営のプロ」
である取締役に完全に委ねることが可能となります。
このようにして、多くの資本金を結集して、また、経営のプロに会社運営を委ね、スケールの大きな金儲けをさせ、経済を拡大的に発展させよう、という発想が株式会社の制度設計の根幹に存在するのです。
もちろん、
「所有と経営の分離」
といっても、
「取締役その他の経営陣は、絶対株主以外から選ばなければならない」
というわけではなく、別に所有と経営が一致しても構わない、ということを含意します。
実際、株式公開していない中堅中小企業のほとんどは、会社の100%株主が代表取締役社長を務めるケース(いわゆるオーナー企業)がほとんどです。
他方、株式公開企業のうち、時価総額1000億円以上の大企業となると、ほとんどが、オーナー色が払拭され、所有と経営が完全に分離した状態になっています。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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