会社の運営機関は、よく国の政治機構にたとえられます。日本の国の政治システムはなかなかわかりにくいですが、法律的にとらえると実に単純です。すなわち、日本の政治は、
1 国民が自分の意志を代弁してくれる代表(国会議員)を選び
2 その選んだ代表があつまる会議体(国会)が多数決で国の代表(内閣総理大臣)や国 の運営の重要なルール(法律)を決め
3 国の代表(内閣総理大臣)が法律を執行し
4 裁判所が事後的、後見的に法律の執行状況や、法律そのものが問題ないかどうかチェックをする
というシステムを採用しています。
株式会社(一般的な株式会社形態である取締役会及び監査役設置会社)もこれと同じで、
1’ 株主(国民)が自分の意志を代弁してくれる代表(取締役)を選び
2’ 取締役があつまる会議体(取締役会)が多数決で会社の代表(代表取締役)や会社運営にかかわる重要な意思決定(取締役会決議)を行い
3’ 代表取締役が取締役会で定まった内容を遂行し
4’監査役(裁判所)が、代表取締役や取締役が法令や定款に違反するような行為を行っていないかどうか、チェックするというシステムを採用しています。
要するに
国会≒株主総会
大臣≒取締役
内閣≒取締役会
内閣総理大臣≒代表取締役
裁判所≒監査役
という図式で把握すると、株式会社の統治・運営システムが理解しやすいと思います。
ところで、憲法や行政学の議論として、行政国家現象と呼ばれるものがあります。
これは、
「本来的には、国会と内閣と裁判所の国家三権を担う権力機構は、それぞれ対等独立の立場とプレゼンスを保ち、相互に抑制・均衡・監視を働かせつつ、他の機関が暴走することを抑止・予防し、もって人権保障(なかんずく、侵害されがちな少数者の人権保障)という憲法の究極の目的を実現する」
という健全な姿を前提とします。
しかしながら、実際には、行政執行を司る行政権が予算・権限ともにどんどん肥大化していき、三権の対等・均衡・分立が歪んで機能しなくおり、肥大化して牽制の契機が働かなくなった行政権が暴走し、健全な憲法理念の実現が困難になりつつある、という現象を指します。
そして、この問題とすべき状況は、そのまま株式会社運営システムにも、完全な相似形を保ちながら、当てはまります。
会社法においても、組織運営権力機構の設計について、国家運営システムと同様、株主総会、取締役会、代表取締役、監査役という形で分散・分立させ、相互に監視・抑制を働かせるようなメカニズムを採用したのは、1つの権力機構が肥大化して暴走して、株主や債権者をないがしろにしたり、法令や定款を無視したりするようなことを懸念したからと考えられます。
他方で、現実の株式会社の運営実体は、行政国家現象と同様、日常の業務執行を司る代表取締役が絶大な権限を保持し、取締役会が御用機関や追認機関となり、また、代表取締役の横暴を監視・抑止するべき監査役については、
「閑散役」
などと呼ばれ、窓際にいる何もしない形式だけの閑職扱いされ、
「吠えない番犬」
「噛まない番犬」
が如き存在として、存在すら無視されるようなことが多く見受けられました。
加えて、株式会社の最高意思決定機関である株主総会についても、代表取締役を筆頭とする会社執行陣からは、積極的で活発な議論を期待するどころか、波乱も、混乱もなく、短時間で、形式的・儀式的に終わることが理想とされ(シャンシャンと終わることから「シャンシャン総会」といわれます)、議論が百出して長時間意見が戦わされるような本来的な討議機関として機能するような場合は、
「(長時間、過酷なことを強いられる)マラソン総会」
などと評して嫌悪されるような状況でした。
このように、行政国家現象と同様、日常の業務執行を司る代表取締役が絶大な権限を保持して、他の機関からの抑制・監視が働かなくなると、当然ながら、代表取締役が暴走する素地が生まれ、放漫経営・乱脈経営、過大で冒険的な投資、法令定款違反、内部統制の欠如、株主や債権者の無視・軽視につながり、やがて、株式会社が大きな危機状況に陥る危険性が増大します。
そこで、どのようにして、他の運営機関を活性化・活発化・積極化させ、会社法が本来予定していた、各機関相互の健全な抑制・均衡による、適正な会社経営が実現できるか、ということが会社法改正の議論等の場において、討議・検討され続けています。
株主総会の活性化、取締役会の監督機能の強化、経営の監督機能と経営の執行機能の分離(委員会制度導入の際の議論)、監査役の権限強化といった議論は、このような文脈で語られています。
ここで、株主総会運営実務の基本を述べておきます。
株主総会は、株主、すなわち、株式会社に対して元手(資本金)を出した、共同オーナーの方々が集まって、役員人事や決算承認、その他会社の基本方針や重要事項を決定する、会社の最高意思決定機関です。
上場企業の株主総会を取り仕切る部署にとっては、株主総会は年に1回の、非常に神経を使うイベントです。
上場企業は、一定の浮動株の存在が前提となっておりますし、株主は得体のしれない、素性のしれない、何を考えているか、何を言い出すか、わからない完全な他人です。
そういう集団相手に、疎漏なきよう、しっかりとした機関運営を行い、会社の意思決定基盤を盤石にしなければなりません。
そういう意味では、波乱要素もなく淡々とおわる総会(「シャンシャン総会」)が予想される場合であっても、運営事務局である担当部署(法務部や総務部)は、そこそこ気をもむイベントになります。
昭和の時代から
「株主総会対策」
と呼ばれる弁護士の業務分野が形成されてきました。
これは、声が大きく、目つきが鋭く、柄もお品もおよろしくなく、役員の愛人問題やら不倫問題やら社費の私的流用やら交際費名目での豪遊やら、といった、
「週刊誌ネタとしては面白いが、株主総会で取り上げるべき話としては、あまりに関係性が薄い」ネタ
を使って、総会の議事運営を撹(かく)乱することを生業とする特殊な株主(いわゆる総会屋)による妨害を排除して、適正に株主総会を運営するための法的技術の総称ともいうべきものです。
株主がマイクを独占して議事運営を牛耳ってしまわないようワイヤレスマイクではなくスタンドマイクを使用したり、不規則発言をして撹乱する場合にはマイクの電源を手元で切れるようなシステムを作ったり、ヒートアップした株主が暴れ出さないように前方の席は会社側株主に占拠させたり、野党株主の野次に負けないように与党株主にも議事進行のエールを送らせるようにお願いしたり、警備員を配置して議長の指示に従わない場合に退場命令を発して議場から放逐する段取りと準備を整えたり、議事整理をしたり、無意味な質疑を打ち切り、採決まで持ち込む流れを議長にインプットしたり、といったもろもろのプラクティスが確立しています。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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