3 第三者委員会の活用~「私的裁判所」を作って、禊(みそぎ)を迅速に~
ネット上の書き込みの中には、
「まったくの事実無根」
というものではなく、時には
「まったくの事実無根というわけではない、ある意味、“事実有根”のスキャンダルに誇張が加えられただけ」
という趣のものもあります。
このような場合に、監督官庁や裁判所による公的判断を待っていては、判断の方向性を制御できず、却って事態を悪化させることもあり、また、長期間、スキャンダルの渦中に身を置く結果となって、企業信用の低下に拍車をかける結果になりかねません。
迅速に禊(みそぎ)を済ませ、不必要に騒動が拡大する前に、被害を最小限にとどめるためには、自前で、
「裁判所」
を作ってしまう方法が便宜です。
もちろん、この
「私設裁判所」
は、
「第三者委員会」
という形で設置・運用されます。
第三者委員会とは、日本弁護士連合会が策定・公表する
「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」
によって設置運営されるものです。
外部の弁護士や有識者によって構成され、企業不祥事の原因などを調査、公表する組織であるが、端的に表現するなら
「(企業にとっての)自前の裁判所」
のようなものです。
この第三者委員会の特徴は、あたかも裁判所のような公正さを持ちながら、本物の裁判所と違って、根拠となる法律がなく、実際には企業の求めに応じて公表内容、公表時期などが柔軟に決められることです。
また、有識者や弁護士の調査に対する報酬を出すのも企業自身であり、まったく制御が効かず暴走することもないと考えられますし(このあたりの機微は、どうしても微妙な表現になるので詳細は割愛するが、想像力を働かして各自ご理解・ご納得いただけますでしょうか)、他方で、現在の企業の不祥事対策実務において、相応の信用性を獲得した機関として認知されており、ネット炎上対策において、必要な時期に、必要な調査結果を公表できるという点において、本物の裁判所よりはるかに便利です。
金融業界において第三者委員会を活用して早期の事態収拾に成功した例としては、みずほフィナンシャルグループ他が、金融庁から反社会的勢力への不適切融資に関する業務改善命令を出されてから、1か月程度で第三者委員会による調査報告書を公表した事例が挙げられます。
これによって、完全に問題解明をしたとまではいえないが、当面不必要なネット炎上や信用不安など風評被害は回避できたもの、と評価されています。
短期間に不祥事の原因を調査、公表するには、正式な裁判手続きや、法制度ではなく、
「第三者委員会方式(自前の裁判所による調査・判断)」
が、企業の法務安全保障として、極めて適切かつ効果的だったものといえる、重要事例なのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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