01776_11歳からの企業法務入門_9_トラブったとき(約束に違反しちゃったとき、約束を破られたとき)の対処(1)_ゲームロジックとしての法的三段論法

こちらが法律や契約に違反してしまったとき、あるいは、契約相手が契約に違反したとき、そういうときにどう行動するか、というのも企業法務という仕事の範囲となります。

とはいえ、
「違反した」
というのは確かなんでしょうか?

「違反した」
と言いますが、そもそも、そんな法律や約束は本当に存在するのでしょうか?
何時、誰が、どんな内容の約束をしました?
それってフワッとしたものではなく、シビれるくらい具体的なや決まり事や約束なんでしょうか?
今でも有効なんでしょうか?
期限切れで失効してませんか?

「なんかやらかした」
ということですが、どこで、誰が、何時、何時、何分、何秒に、誰に対して、どうやって、何回、どんな感じでやらかしたんですか?

あと、自分は忘れっぽいので、昔のことまでよく覚えていません。

というか、5日前の晩ご飯、何を食べたか覚えています?

普通、覚えていませんよ。

一体、何時の話しているんですか?
え?
そんな前の話?
じゃあ、記録や証拠はないんですか?
「覚えているだろ」とか言われても、困りますよ。

あなただって、5日前の晩飯、覚えてないでしょ。

一体、どういう事実や証拠をもとに、誰が、どういう形で、
「違反した」
と言い出したのでしょうか?

そこに、間違いや、訂正の余地はないんでしょうか?

うまいことすっとぼけることはできないのでしょうか?

仮に
「違反した」
といっても、車がほとんど通らない田舎の狭い道路の横断歩道を赤信号を無視して横断したような話で、
「ごめん」
と言って許してもらえるものじゃないんでしょうか?

あるいは、契約を違反した相手が、上記のような
「くっだらねえ」言い訳
をグチグチ垂れ始めたら、どうやって、言い訳をやめさせ、責任を取らせることができるのでしょうか?

「悪いことをしたら、ゴメンナサイ」
と素直に謝る、というのはコドモの世界の話です。

大人は、突っ張ります。

居直ります。

スットボケます。

言い訳をします。

ゴマカシます。

有耶無耶にしようとします。

1945年8月、日本は第二次世界大戦に負けました。

コテンパンにやられました。

全面降伏です。

ボロ負けです。

かっこ悪いことに、いきなり攻め込まれて防衛ができなかった、というのではなく、自分から喧嘩を売っておいて、ボコられて、コンテパンにやられた、というかなり情けない負け方でした。

その時、日本のエライ人たち(エスタブリッシュメントなどといいます)は、どのような態度をとったでしょうか?
素直に、しおらしく、謙虚に、いさぎよく負けを認めたでしょうか?

ちがいますね。

第2次世界大戦における歴然たる歴史的事実ですら、
「ボロ負けの末の撤退」を「転戦」と言い換え、
「敗戦」を「終戦」と言い換え、
「占領軍」を「進駐軍」と言い換える
などして、ぶざまな失敗を取り繕い、隠蔽しようとします。

「これは撤退ではない、転進だ」
「我が国は敗戦したわけではない、終戦だ」
「アメリカの軍隊が、わが国において、我が物顔でのさばっているが、あれは占領軍ではない、進駐軍だ」
という、聞くに堪えない見苦しい言い方で、突っ張ります。

居直ります。

スットボケます。

言い訳をします。

ゴマカシます。

有耶無耶にしようとします。

これが、
「大人」
というもんです。

汚いですね。

無様ですね。

かっこ悪いですね。

情けないですね。

ビジネスにおいて、法令違反や契約違反の話が浮上しても同様です。

というより、全力で、全集中で、突っ張ります。

居直ります。

スットボケます。

言い訳をします。

ゴマカシます。

有耶無耶にしようとします 。

だって、素直に謝ったら、それで、ジ・エンド。

責任が発生し、大きなお金を失い、最悪、会社が破産して、経営者がホームレスになるかもしれないからです。

こういうときに、
「悪いことをしたら、ゴメンナサイと謝るべき」
という小学校の先生の教えや、サラリーマンのお父さんや、専業主婦のお母さんの、常識と良識あふれる教訓を鵜呑みして、対処したら、お金をなくし、会社をつぶしまくるので、そういう教えや教訓に従うことはあまりおすすめできないかもしれません。

むしろ、戦後の日本のエスタブリッシュメントのように、
「ボロ負けの末の撤退」を「転戦」と言い換え、
「敗戦」を「終戦」と言い換え、
「占領軍」を「進駐軍」と言い換える
などの言い訳や、すっとぼけや華麗な表現マジックを使って、逃げて、逃げて、逃げまくるべきであり、多くの
「大人」の経営者やリーダー
は、そのように小汚いことをしますし、私のような弁護士もそれを絶賛助けて差し上げています。

でも、
「突っ張たり、居直ったり、スットボケたり、言い訳をしたり、ゴマカシたり、有耶無耶にしたりして、いいことがあるんですか? それで逃げ切れるんですか? 早く、素直に謝った方がいいのですか?」
と言われそうですが、意外と、逃げ切れたり、責任が小さくなったり、大事が小事に、小事が無事になったりするのが、ビジネス社会の面白いところ(いい加減なところ)です。

「法律違反でも、契約違反でも、誰かが、約束を破って、約束を破った責任を追及する」
というとき、
「責任を追及する側」
は、めちゃくちゃ大変であり、逃げる方は、コツさえつかめれば、いくらでも逃げることはできるからです。

「約束違反の責任を追及する側」
は、
「三段論法(法的三段論法)」
というゲームロジックを使って
「約束を破った奴」
を追い詰めることになります。

大前提として、まず、約束の具体的内容を示します。

「こういう法律があり、あるいはこういう約束があり、相手は、こういう義務を負っていた」
ということを、きっちりと説明しなければなりません。

次に、小前提として、相手のやらかした不始末を示します。

「相手は、何月何日、この場所で、こういうことをした」
ということも、きっちりと説明します。

そして、小前提と大前提とを照らし合わせて、小前提(相手の不始末)が、大前提(相手が負担している義務や約束)に違反していることも説明できて、はじめて、
「相手は法律違反をした、相手は契約に違反した」
といって文句を言えるのです。

ところが、
・そもそも大前提としての法律や契約の内容が曖昧だったり、不明確だった場合
・約束をしたが、契約書、すなわち約束の証拠がなく、かつ、相手が「そんな約束をしたっけ?」とスットボけた場合
相手を問い詰めることはできなくなります。

特に、
「法律に書いていないことはすべてやっていいこと」
「契約に書いていなければやりたい放題」
という裏のルールが発動すると、大前提が崩壊して、相手が逃げ放題、ということも起こり得ます。

また、
・小前提のレベルで、相手が、自分の不始末を知らぬ存ぜぬの態度で、自分の不始末を認めず、こちらに動かぬ証拠がないという場合
も、相手の不始末は間違いないが、証拠がないので、それ以上追及は不可能、ということも起こり得ます。

責任を追及をされたり、責任追及したり、というあたりは、
「裁判」
という国家が整えた手続きを使って行いますが、
・責任追及する側は、三段論法と証拠を使って、約束違反した相手を追い詰めようとする
・責任を追及された側は、「そんな約束はした覚えがない」「その約束は俺には関係ない」「約束が曖昧だ」「法律や契約書に明確に書いていないことは、全てやっていいことだ」と大前提を争ったり、「そんな昔のことは忘れた」「自分は知らない」「証拠をみせてみろ」と小前提を争ったり、さらには、「確かに約束違反したようだが、そんなに迷惑をかけていないし、そちらが言うような大事でもない。騒ぎすぎだ」と言い逃れをする
といった形で、険悪な言い争いをしながら、ときに譲り合ってケリをつけたり、ときに裁判所の判断を仰いだりしながら、ゲームをすすめていくことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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