従業員が、(言や策を弄して)業務上疾病との認定を得ると、会社としては、会社に来ない人間に対して長期間相当な金銭提供をせざるを得ません。
さて、中途で入社した男性社員が、試用期間あけから、意図的なサボタージュと考えられる行動を続けたケースがありました。
男性社員は、いろいろ理由をつけては会社に来ようとせず、かといって、退職するわけでもありません。
病院通いをほのめかすものの診断書を出すわけではなく、また、言外に、
「こんなに不調になったのは会社のせいだ」
と言わんばかりの状況です。
男性社員には、上司としての女性社長と年下の部下しかいないため、パワハラはおろか、仕事は当該社員の専権で行われているのに近い状態で、接点も乏しく、意図を感じざるを得ないサボタージュのような推定が成り立つ状況です。
当該社員は、弱者を装っていますが、その行動だけを拾っていくと、明らかに、常識や理性を共有せず、去就を明らかにすることなく、法の限界を知悉しつつ、合法的に会社に居座り続け、会社の資源を消耗させ続ける態度を取っており、十分タフと評価できます。
会社側から相談を受けた弁護士は、会社側から詳細を聞き取りしたうえで、課題整理と選択肢抽出をします。
無論、選択肢は完全ではありませんし、
「状況を、低コストに、短時間に、打開させ、一挙に相手をひれ伏させる魔術」
のような都合のいい選択肢は、ありません。
要するに、正解はなく、選択肢のどれもが不満足な要素を含む不完全解しか存在しません。
しかも、最善解に辿り着けそうだが、その手前に、リスクやコストや資源消耗が立ちはだかる、厄介な選択課題です。
誰も最善の選択を教えてはくれませんし、それ以前に、知りません(弁護士ですら知りません)。
弁護士ができる支援パッケージは、せいぜい、
・可能な限り多くの選択肢を抽出すること
・当該選択肢に「客観的かつ冷静に」プロコン評価を加えること(プロジェクトーナーの顔色を伺ってバイアスやフィルターやセンチメントを加えず、プロとして、経験と知識に基づき、シビアに提示する)
・どんな選択肢であれ、きちんとした選択をプロジェクトオーナーが行った限り、当該「(不完全な)選択肢」を、正解は無理でも、最善解に近づける努力をする
・状況が変わったり、プロセスが進捗して、さらなる選択肢が浮上してきたり、環境が変化すれば、さらなる選択課題に向き合って支援を深掘りしたり、ゲームチェンジに対応する
ということです。
そもそも、この状況は、
「採用は自由だが、一旦採用したら、どんなに問題社員でも、定年まで居座られる」
という法現実をふまえず、安易・安直に採用したトップのミスが、足を引っ張り続けている状況です。
有耶無耶に放置すると、(会社の規模にもよりますが)会社存続に関わるほどの大問題といっても過言ではありません。
昨今は、法の限界を知悉しつつ、“合法的に会社に居座り続け、会社の資源を消耗させ続ける”、この種の悪質な企業への攻撃が増えている、という社会背景があります。
会社としては、強い気構えで対処すべき必要があります。
この打開するのは、トップであるプロジェクトオーナーしかいません。
選択の権限と責任は、トップであるプロジェクトオーナーにあるのですから。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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