訴訟が始まり、相手方から訴状が届くと、弁護士はまず、クライアントに対して相手方の主張に対する反論を求めます。
しかし、この際にクライアントが感じやすいのは、
「弁護士は高い料金を取るのに、自分で何もせず、すべてをこちらに押し付けている」
という不満です。
これは、弁護士とクライアントのコミュニケーションのズレが原因であり、実際には、弁護士はクライアントと共に戦うために、まずはクライアントからの情報提供が不可欠であるという現実があります。
弁護士の役割は、法的知識と技術を駆使してクライアントを守ることですが、事件の事実関係を最もよく知っているのはクライアント自身です。
弁護士が効果的な弁護を行うためには、クライアントから正確で詳細な事実を聞き取る必要があります。
これを
「上工程」
と呼ぶこともできます。
すなわち、クライアントが持つ情報をしっかりと弁護士に伝えることが、訴訟の準備における最初の重要なステップなのです。
弁護士は、クライアントから得た事実をもとに、それらを有利な事実と不利な事実に分けます。
有利な事実については、多角的に分析し、裁判で最大限有利に働くような主張を構築します。
不利な事実については、なるべく目立たないようにするか、または事実の解釈を微妙に変えて、相手の攻撃を防ぐようにします。
つまり、弁護士は情報という素材をもとに、最適な戦略を練り上げる
「完成品」
を作り上げるわけですが、その素材が不十分では、どんなに優れた弁護士でもその力を発揮することはできません。
このため、クライアントには、
「相手方が主張している事実が本当かどうかの確認」
「事実と異なる部分や誤解を招く表現への反論」
「訴訟に関連して伝えたい追加のエピソード」
などを、できるだけ詳細に文書化してもらうことが求められます。これは、ただ単に
「反論を書いてください」
という漠然とした要求ではなく、具体的に何を確認し、何を伝えるべきかを明確にしたうえでのお願いです。
弁護士がクライアントにこのような作業を依頼するのは、決して怠けているわけでも、仕事を放棄しているわけでもありません。
クライアントにしかわからない事実をもとに弁護士が全力で戦うための準備を整えているのです。
「がんばって上工程をやってほしい」
というのは、弁護士とクライアントが一緒になって、訴訟という難敵に立ち向かうための必要不可欠な協力要請です。
このように、訴訟準における情報共有は、弁護士とクライアントの
「共闘」
を実現するための第一歩です。
弁護士が持つ法的なスキルと、クライアントが持つ事実の情報がしっかりと結びついて初めて、強固な防御と攻撃が可能になります。
お互いの役割を理解し、しっかりと協力することで、より良い結果を引き出すことができるのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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