02220_企業法務ケーススタディ:取引先倒産! 破産管財人からの「底引き網」請求に慌てるな_社長個人への支払いは有効か?

「取引先が倒産した! しかも、破産管財人から『売掛金を払え』という通知書が届いた!」 
「いやいや、もう社長個人に払ってしまったし、そもそも契約相手は法人ではなく社長個人のはずだが・・・」

取引先が破綻した際、裁判所から選任された
「破産管財人」
から、有無を言わさぬ請求書が届くことがあります。

弁護士名義の仰々しいFAXや内容証明郵便を見ると、つい
「お上の命令か?! 」
と萎縮してしまいがちですが、ここで慌てて二重払いをしてはいけません。

破産管財人の請求が常に的を射ているとは限らず、彼らは職務上、あえて
「ダメ元」
で底引き網を広げている可能性があるからです。

本記事では、破産管財人からのプレッシャーに対し、
「法人と個人の別人格性」

「支払のタイムライン」
を武器に、不当な請求をはねのける法務戦略について解説します。

この記事でわかること:

• 破産管財人が行う「底引き網」的な債権回収の実態と、それにビビってはいけない理由
• 「法人」と「社長個人」の別人格性を利用した反論ロジック
• 「通知が先か、送金が先か」ですでに支払い済みである場合の法的な対抗要件

相談者プロフィール: 

株式会社 スマート・トランザクション 管理本部長 防人 堅(さきもり かたし) 
業種: システム開発・ITコンサルティング
相手方: 株式会社 ルーズ・クリエイティブ(破産会社)および、その代表である飛田氏(個人)

【相談内容】 

先生、朝から肝を冷やしました。

当社の長年の外注先であるウェブデザイン会社
「株式会社 ルーズ・クリエイティブ」
が自己破産したそうなんです。

そこまでは昨今の情勢を考えればあり得る話なのですが、裁判所から選任されたという破産管財人の弁護士から、いきなりFAXで 
「未払いの制作料300万円を、直ちに管財人口座へ振り込んでください」
という請求書が届いたのです。

確認したところ、その制作料は、今朝一番に、代表の飛田氏の個人口座へ送金済みでした。

これでは二重払いをしろということになりませんか? 

それに、そもそも当社が契約しているのは、法人である
「株式会社 ルーズ・クリエイティブ」
ではなく、代表の飛田氏(個人)なんです。

契約書の名義も個人の実印が押されています。

しかし、相手は裁判所のバックがついている管財人ですし、法律のプロです。

言われた通りに払わないと法的にまずいことになるのでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:管財人の「底引き網」漁法に騙されるな

防人本部長、破産管財人からの通知書や請求書は、受け取った側からすると、まるで
「お上の命令」
のように感じられ、心拍数が上がるものです。

しかし、ここで思考停止してはいけません。

彼ら(管財人)のミッションは、破産財団(債権者に配当するための原資)を1円でも多く確保することです。 

そのため、会社の帳簿に
「未回収」
と見えるものがあれば、実態がどうであれ、とりあえず片っ端から請求書を送りつけます。

いわば
「底引き網」漁法
です。

「とりあえず網を投げてみて、ビビって払ってくれる魚がいれば儲けもの」
という側面があることを理解しておきましょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「法人」と「個人」は、法律上まったくの別人である

ビジネスの世界では、
「社長=会社」
と同一視されがちですが、 法律の世界では、
「法人」

「社長個人」
は完全に別の人格(別人)です。

今回、契約書のハンコが個人の実印であり、契約の主体が飛田氏個人であるならば、御社が取引をしていた相手は
「飛田氏」
であり、
「ルーズ・クリエイティブ社」
ではありません。 

破産管財人は、あくまで
「法人の財産」
を管理・回収する権限を持っているだけであり、別の人格である
「社長個人の債権」
を回収する権限は一切持っていません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「ゴール」と「ホイッスル」のタイムライン

さらに、仮に契約相手が法人だったとしても、
「支払いのタイミング」
が重要になります。 

法律上、債権が差し押さえられたり、管財人から
「こちらに払え」
と通知が来たりする前に、すでに本来の債権者に支払いを済ませていれば、その支払いは有効です。 

サッカーに例えれば、ボール(お金)がラインを割った(送金された)のが、ホイッスル(管財人の通知到達)より先であれば、ゴール(弁済)は認められます。

「入れ違いで支払い済みです」
という事実があれば、管財人は
「二重払い」
を要求することはできません。

モデル助言:「ゼロ回答」で堂々と跳ね返す

防人本部長、慌てる必要はありません。

相手が
「裁判所の代行人」
であっても、法的な理屈が通っていれば恐れることはありません。

今回のケースでは、以下の2点を主張することで、
「ゼロ回答(支払拒絶)」
を返すことができます。

1 「契約の主体が違います」 

「本件契約は、貴職が管理する破産法人との契約ではなく、飛田氏個人との契約です」
と明記します。

この一言で、法人の破産管財人の請求権は根底から消滅します。

2 「すでに支払いました」 

万が一法人の契約だと言い張られても、
「本日の送金分については、貴職からの通知が到達する前に、すでに送金済みである」
と伝えます。

管財人がお金を取り戻したいなら、受け取った飛田氏個人から回収すべきであり、御社に二重払いを求める筋合いはありません。

結論: 

ビジネスにおいては、
「誰と契約したか(契約の主体)」

「いつ払ったか(履行の完了)」
の記録さえしっかりしていれば、破産管財人のどんな
「底引き網」
も怖くはありません。

相手も法律のプロですから、理屈が通っていれば
「ああ、そうですか(釣れなかったか)」
と、あっさり引き下がります。

過剰に恐縮したり、忖度したりする必要は一切ありません。

毅然とした態度で事実を突きつけ、無駄な法的紛争を入り口でシャットアウトすることこそが、真の
「戦略的訴訟の流儀」
なのです。

※本記事は、架空の事例をもとに、破産法および民法上の弁済の有効性に関する一般的な法解釈を述べたものです。
破産管財人の正当な権限行使を不当に妨害する意図や、財産隠し等の違法行為を推奨する意図は一切ありません。
実際の契約の効力や支払いの有効性については、個別の事実関係により判断が異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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