02224_ケーススタディ:「納得できない」でもハンコを押せ? 裁判官の“和解勧告”を蹴飛ばしてはいけない「経済的理由」

「あと50万円積めば、この泥沼から抜け出せる? 冗談じゃない、こっちは1円だって払いたくないんだ!」

裁判所から和解を勧められたとき、経営者の多くはこう憤ります。

自分たちに非がない、あるいは相手の要求が不当だと思えば思うほど、金銭での解決は
「屈服」
のように感じられるものです。

しかし、ここでの50万円は、単なる
「負け代」
ではありません。

それは、将来のリスクを完全に遮断し、相手の口を封じるための
「高機能な錠前代」
なのです。

本記事では、裁判所からの
「強い和解勧告」
を蹴ることのリスクと、判決ではなく和解を選ぶことの
「戦略的な経済合理性」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 裁判官の「お願い(和解勧告)」を拒否したときに待っているリスク
• 判決文という「公開タトゥー」:勝敗に関わらず記録される企業の恥
• 「口止め料」としての解決金:判決では得られない「守秘義務」の価値

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社ノヴァ・インテリア 代表取締役 整井 納(とい おさむ) 
業種 : オフィス内装デザイン・施工管理
相手方: 合同会社リジット・ワークス(元・施工外注先)

【相談内容】 

先生、納得がいきません。 

元外注先(リジット・ワークス)との施工不備を巡るトラブルの件、今日の裁判で、裁判官から 
「200万円で和解しなさい」
と強く言われましたよね?

こちらは、以前から申し上げている通り、解決金的な意味合いも含めて 
「150万円」
までなら譲歩すると言っています。

これでも十分すぎる額です。 

相手の不手際もあったわけですし、これ以上、1円たりとも上乗せする理由がありません。

「裁判所の努力でここまで下げさせた」
なんて恩着せがましく言われましたが、そもそも200万円払う義務なんてないと思っています。

このまま和解を拒否して、判決をもらって白黒つけたほうが、スッキリするのではないでしょうか?

「具体的な金額」が出たら、それは事実上の「命令」です

整井社長、裁判官の言葉を額面通りに受け取ってはいけません。 

裁判官が
「200万円での和解をお願いしたい」
と言い、かつ
「絶対に和解で終わらせたい」
とまで言った場合、これは単なる
「お願い」
ではなく、実質的な
「命令」
に近い重みを持ちます。

民事訴訟の実務感覚で言えば、裁判官が具体的な数字を出して和解を勧めるのは、
「この辺りが法的な落とし所だ」
という確信があるからです。

これを
「納得できない」
と感情的に蹴り飛ばすとどうなるか。

裁判官の心証を損ね、判決文において、こちらに極めて厳しい事実認定(いわば報復的な敗訴判決)が下されるリスクが跳ね上がります。

50万円をケチった結果、全面敗訴でそれ以上の支払いを命じられる可能性すらあるのです。

判決文は、ネット時代の「デジタル・タトゥー」になり得る

「判決で白黒つける」
とおっしゃいますが、判決には副作用があります。

判決文には、勝敗の理由が詳細に書かれます。 

仮に勝訴に近い結果だったとしても、
「ノヴァ・インテリア社の管理体制には一部不備があった」
などと、後世に残したくない恥ずかしい認定が公文書として刻まれる可能性があります。

現代において、こうした判決文はデータベース化され、半永久的に残ります。 

一方、和解であれば、理由は書かれません。

「解決金を支払う」
という事実だけで、中身はブラックボックスにできます。

企業の評判(レピュテーション)を守る意味で、判決という詳細な記録が残る
「公開処刑」
を避けるメリットは計り知れません。

「50万円」で買う「沈黙」と「未来」

ここが最も重要な点です。 

判決では
「金払え」
「払わなくていい」
しか決められません。

しかし、和解なら
「条項」
を作れます。

今回、提案されているように、
「今後、本件の内容を口外しない(守秘義務)」
「一切の紛争・誹謗中傷を行わない」
という条項を入れることができます。

相手がSNSや業界内で御社の悪口を言いふらすリスクを、このプラス50万円で封じ込めるのです。 

判決まで行って勝ったとしても、相手が腹いせに
「あの会社はひどい」
と吹聴して回るのを止める法的な力は、判決文にはありません。

差額の50万円は、相手の口にチャックをするための
「高性能なジッパー代」
と考えてください。

【今回の相談者・整井社長への処方箋】

整井社長、結論を申し上げます。 

「悔しい気持ちをグッと飲み込み、200万円で手を打つことをおすすめします。それが、御社にとって最も安上がりで、賢明な『勝利』です」

1 「不確実性」というリスクを買わない 

もし和解を拒否して判決になった場合、相手が控訴して高等裁判所までもつれ込む可能性があります。

そうなれば、解決までさらに半年、1年とかかり、弁護士費用も追加でかかります。 

今、200万円でサインすれば、この瞬間に
「将来の不安」

「追加コスト」
をすべて遮断できます。

これは、
「時間を金で買う」
高度な経営判断です。

2 「実質的な解決」をパッケージする 

単にお金を払うだけではありません。

和解条項に以下のセットを組み込みます。

• 清算条項:「これ以外に一切の債権債務がない」と確認させ、後出しジャンケンを封じる。

• 守秘義務・誹謗中傷禁止:違反した場合は違約金を払わせる条項も検討し、相手の口を物理的・心理的に封じる。

3 結論 

裁判官の顔を立てて、穏便に、かつ密室でトラブルを葬り去る。

これが、企業防衛における
「大人の喧嘩の終わらせ方」
です。

50万円の差額は、将来の悪評被害を防ぐための
「広告宣伝費」兼「保険料」
だと割り切ってください。

※本記事は、一般的な民事訴訟における和解のメリットとリスクについての戦略的視点を解説したものです。 
個別の事案における和解の可否や条件については、具体的な証拠状況や裁判所の心証に依存しますので、必ず担当弁護士と詳細に協議の上、ご判断ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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