これまで、多くの日本企業は、約束事の文書化を避け、
「信頼関係」
を唯一の基礎として、取引関係を処理してきました。
ですが、
「信頼関係」
の認識は、取引がうまくいっていて両方がハッピーに儲けている間は完全に一致していますが、トラブルが生じると、全く違ったものになってしまう、きわめて脆弱なものです。
例えば、大きな契約交渉中に、契約成立直前になって、相手方が突如、態度を豹変させ、交渉終結を申し出た場合を考えてみましょう。
契約を締結させたいと考えている側からすれば 、
「交渉を破談にするのであれば、相応の賠償をするのが信頼関係」
と考えますが、破断を申し出た企業からすれば
「状況が変わったら、過去の経緯にとらわれず、交渉から解放してくれるのが信頼関係」
となります。
合意内容を常に言語化し、齟齬がないかどうかを確認しておかないと、同じ日本人が日本語で話し合っていても、常に錯誤に陥る危険性は存在します。
また、仮に、契約が成立した後でも、契約内容を記録した契約書の記載が曖昧であれば、将来利害が対立すると、
「曖昧な内容」
を巡って解釈や適用において、深刻な利害対立が生じます。
そんな状況において、
「信頼関係」
という無内容で抽象的な概念を振り回しても、解決には何ら貢献せず、紛争処理のため無駄な時間とコストとエネルギーを消耗する不愉快な未来しか描けません。
日本でも、1990年代の終わり頃から、契約書を巧みに操れる外資系企業や、新興ベンチャーが取引社会のキープレーヤーとして幅を利かせるようになり、
「信頼関係」
だけで取引を形成する日本流の文化は後退し、契約社会に変貌を遂げていきました。
現代のビジネス社会を生き抜く企業としては、合意内容や取引内容を曖昧なままにせず、
「言語化、文書化、フォーマル化」
して、契約書として明確かつ具体的な文書記録として残すことはもちろんのこと、契約書の内容としても、
「信頼関係」「信義誠実」
という多義的で無内容で紛議のタネを撒き散らすだけの抽象表現に依拠せず、どんなにシビアな利害対立に遭遇しても、しっかりと相手にこちらの主張を認めさせるような、モダンで効果的な契約書を作成するべきです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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