01512_「情報弱者」企業のしくじりと末路

無論、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)は必要条件であっても、十分条件ではありません。

「情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)を導入すれば、わが社もすぐに売り上げ倍増!」
などと考えている(イタい)企業があれば、それはそれで危険な兆候です。

このような
「情報弱者」
の中小企業を狙って、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)関連企業が食い物にするケースもあります。

一昔、二昔前の話になりますが、
「内部統制バブル」
というものに便乗して情報弱者の企業を狙った悪質なICT関連商法が流行ったことがあります。

すなわち、
「日本版SOX法が施行されるので、内部統制を構築しないと大変なことになる。内部統制構築のため、このシステム一式2億円をお買い上げください。細かいことは考えなくて結構です。とにかくこれを装備してください。そうじゃないともう手遅れです。早く、早く」
などという言い方で中小企業に用途のよくわからないものを売り込む商法です。

ちなみに、背景をいいますと、日本版SOX法は、金融商品取引法24条の4の4で定められる内部統制構築義務を指しますが、これは株式公開企業が履行すべき義務であり、株式を公開していない中小企業は一切関係のない法律です。

ですので、上場していないそこらへんの中小企業に
「日本版SOX法に関するホニャララ」
を売るというのは、認知症の老人に不要なリフォーム工事を売り込むのと同様であり、極めて問題のある商法です。

とはいえ、購入する側の知的水準もどうかしていると思いますが。

その次のトレンドとしては、これは一昔前くらいですが、
「IFRS(国際財務報告基準)が襲来するぞ!今から備えよ!」
という似たような話もありました。

IFRSも株式公開企業の、しかも国際的な事業活動を行っている企業に限定された話で、非上場の中小企業には一切関係のないものです。

「IFRS関連グッズ」
を買おうと検討していた、非上場のマルドメ(まるでドメスティックな)中小企業の社長さんの中には、少なからず無駄なカネを費消された方がいるようです。

いずれにせよ、パソコンの機種やソフトウェアというものは、きちんと活用していれば、法定耐用年数のはるか以前に陳腐化していくものです。

その意味で、5年以上も何らの更新もなくこれらのハードやソフトが使われているとなると、
「当該企業は情報弱者ではないか」
との高度の推測が働きます。

実際、倒産する企業の現場に行きますと、情報環境がおそろしく遅れています。

古びたパソコンに無秩序にファイルが羅列しており、また、紙媒体の情報とパソコンに格納された電子情報が混在し、さらに、ランダムに保存された数種類の保存媒体(CDであったり、USBメモリであったり、外付ハードディスクであったり)上の情報も併存しています。

社長は紙媒体で情報を確認しているが、経理部長はパソコン上のファイルを完成情報と見ており、経理スタッフは各々勝手にファイルを更新している、といった混乱した状態なのです。

これでも、ある程度の期間、一貫して情報を把握している人間がいればいい方です。

人の入れ替わりが激しく、辞めていったり、補充されたり、を繰り返していると、何が何だかわからなくなります。

アタマが混乱している人間は自分の行動を制御できないのと同様、会社の中枢の情報がこのように混乱していて、健全に企業として存続できるわけはありません。

いずれにせよ、所属企業や取引先企業が、情報弱者であったり、あるいはその兆候がある場合、注意が必要となります。

そして、
「情報弱者」企業
は、
「情報弱者」状態
を脱しようと、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)導入を企図するのですが、そこでも、
「情報弱者」
という知的脆弱性がアダとなって、悲惨な形で食い物にされてしまいます。

そして、情報弱者の企業は、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等) 導入で躓いて、そこから企業自体がおかしくなってしまうこともあるのです。

日本の多くの企業において、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等) 導入で大失敗してしまう最大の原因は、
「要件定義」
と呼ばれる作業ができないからです。

「要件定義」
とは、システム開発において、ユーザーが、どのような機能を求めているのかを明確にする作業のことです。

そして、通常、この
「要件定義」作業
は、ベンダー側とユーザー側の双方の協力によって(といっても実際は、ベンダー側が主導しますが)行われます。

しかし、これも考えてみればおかしな話です。

たとえば、普通の知的水準の方であれば、食事をしたいとき、
「どんな食事を、いくらくらいで、どんなお店で食べたいか」
ということを明確に定義することはできるはずです。

もし、毎度毎度の食事で、
「『どんな食事を、いくらくらいで、どんなお店で食べたいか』が全くわからないので、この点いちいち誰かに決めてもらわなければならない」
とすれば、その方の認知レベルは相当問題がある状態であり、どこか適切な施設で暮らした方がいいかもしれません。

「要件定義ができない企業」
というのは、まさしくこれと同じで、要するに
「自分たちは、一体、何のために、どのようなシステムを、どのくらいで購入すべきかわからないので、教えてくれ」
といっているのです。

そして、当該企業は
「何のために、どのようなシステムを、どのくらいで購入すべきか」
を教えてもらうために、システムを販売する会社に何百万何千万円単位のお金を平気で払っています。

「お金はあるが、何がほしいかわからないので、それも含めて教えてくれ。教えてくれたらそれを買う」
という人間が店先に現れたとしましょう。

これは、一般に
「カモが、ネギと鍋と出汁(ダシ)を背負ってやってきた」
といわれる現象であり、
「食い物にするな」
という方が無理かもしれません。

かくして、情報技術(ICT、DX、AI、RPA等) 導入に際し、情報弱者の中小企業が徹底的にボられるケースが多発するのです。

とはいえ、これはボられる方が圧倒的に悪い。

株式会社は、会社法上
「商人」
すなわち
「商売のプロ」
とみなされるわけですから、認知症の状態で取引社会の鉄火場をフラフラする方が問題です。

いずれにせよ、情報弱者の企業は情報技術(ICT、DX、AI、RPA等)導入についても常に高いリスクにさらされている、といえます。

運営管理コード:YVKSF078TO084

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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