01635_法律相談の技法1_相談者からサポート要求メッセージを受けた際の初動(相談実施前に行っておくべき、事前の「前提状況確認」)

1 前提

まず、相談者が何やらサポートメッセージを言語として発していてもこれを素直に受け付けるべきではありません。
法律や事件対処の素人である顧客・相談者が、正しい理解と認識の下、正しいことを要求しているとは限りません。
相談者(素人)が言語として発しているメッセージが、正しいものなのか、それとも正しくないもの(間違ったもの、不合理なもの、狂ったもの、「前提において致命的な誤りがあり、当該前提から矯正すべきもの」等)かを見定める必要があります。
そして、後者、すなわち、相談者が
「正しくないもの(間違ったもの、不合理なもの、狂ったもの、「前提において致命的な誤りがあり、当該前提から矯正すべきもの」等)」
をサポートリクエストメッセージとして申し出てきている場合、当該メッセージ の解釈・補正が必要となります。
といいますか、
「正しく状況認知ができ、正しく状況評価・解釈ができ、正しく合理的な支援要求できるような相談者」
は稀、というか、まずそんな素人いません。
デフォルト状況として、
「素人であり、ただでさえ知識も経験もないのに、事件の当事者であり、トラブルの渦中にいて、パニックになって認知能力も知性も精神的安定性も欠如している相談者」
は、
「『欲によって曇った目』と『都合の悪いことが聞こえない耳』で認知・認識した歪んだ状況を、自己保存のバイアスで自己に都合よく評価・解釈し、間違った考えの下、間違った内容として構成した話」
を、自信たっぷりに語りだすため、普通に観察すれば、
「息を吐くように嘘を付く」
ようになってしまっていることが、経験則上、多く見受けられます。

2 相談者に対する気構え

したがって、
性「愚」説
に立ち、
「相談者は、常に間違ったこと、事実と違うこと、おかしなこと、不合理なこと、誤ったことを、ときに本人として嘘や間違いを話しているという意識もなく、語っている」
という前提に立つべきであり、そのような気構えをもって接することとなります。

3 「相談者が求める『相談内容そのもの』や『そもそもの相談の前提』が致命的に間違っており、一見して狂ったものである可能性」がありうることを常に念頭におく

例えば、相談者が契約書を持参し、
「契約書をチェックしてください」
と依頼してくる場合があります。
ところが、相談者は、「フォーマルな文書」に対する識字能力が欠如しており、契約書の記述内容をまともに読解できておらず、
「契約書のチェック」
といっても、実際は、代読の要請、すなわち、
「ブックリーディングレベル(字が読めない子供に絵本を読み聞かせるようなレベル)の支援要求」
であることが判明することもあります。
また、契約書により記述されたビジネスモデル自体に不合理性や欠陥が顕著に存在しており、契約書作成以前に課題があり、
「相談者が直面している真の課題」
は、
・ビジネスモデルのストレステスト

・ビジネスモデル変更に伴うタームシートレベル(契約条件設計書)の内容変更に関するカウンセリング
であり、
「契約書起案や構成」
のはるか以前の前提段階の支援要求であることが判明することもあります。
さらに言えば、相談者には、取引構造自体の意味やポイント把握が必要な知的レベルすら欠如しており、
「契約書で記述された取引構造やビジネスモデル」
を読解して整理すると、現実には、
「1万円札を1万2000円で買い、当該1万円札は、ほとんど売れず、8000円でも売れない状況である可能性が内包する、という構造的欠陥が存在する」
という構造的欠陥が存在しており、にも関わらず、相談者において当該欠陥に気づいておらず、事態をシンプルに表現すれば、
「相談者は、詐欺師に騙されて、詐欺の内容の契約を提案され、これを受諾しようとしている」
というお粗末な状況が判明することもあります。
このような状況が判明した場合、必要なことは、
「契約締結を所与として、提案された契約書を緻密に査読して、そのテニヲハを緻密に修正して、文書を完璧にチューンナップすること」
ではなく、
「(詐欺師から提案された内容が詐欺の)契約そのものをしない」
ように助言することとなります。
このような本質的状況や前提を理解せず、
「契約書の査読とありうべき修正をされたい」
という
「状況を理解していない素人の相談者」
が当初要求する課題を馬鹿正直に字義通り受け取り、
「契約締結を所与として、提案された契約書を緻密に査読して、そのテニヲハを緻密に修正して、文書を完璧にチューンナップし」
て 契約を取り交わした場合、
「『契約書の記述・表現』の前提となったビジネスモデルの構造的欠陥」
が原因で、相談者が大きな損害を被ることとなり、弁護士は、そのような危険を見抜けなかった自体を責められることになりかねません。

4 相談者の要求メッセージを実行する前の事前カウンセリング

たいていの新規相談については、相談者から発せされた要求メッセージに着手する前に事前のカウンセリング(前提状況把握)が必要なことがありえます。
医療(病気の治療)のアナロジーで解説しますと、患者が医者に
「私はインフルエンザA型なので、早く、インフルエンザA型に効く薬を出してくれ」
と訴えて来たとしても、その訴えどおりにいきなり
「インフルエンザA型に効く薬」
を渡すような医者はいません。
そんなことをやれば医者は医療過誤で訴えられます。
普通の医者は
「何、あんた、勝手に病名語ってんの? 病名はこっちが決定するから。あんたに聞いてんのは病名じゃなくて、病状。とっとと、病状話してくれよ」
とたしなめるものです。
これと同様、相談者の当初要求メッセージは、
「素人の戯言」
程度に認識するにとどめ、少なくとも、話を深掘りしたり、前提を推察して、前提や構造における、欠陥や異常性や不合理性を見つけ出すべきであり、そのために、事前のカウンセリングを実施すべき場合があります。
経験のある弁護士がこの種の事前カウンセリングを行うと、
「前提が不合理あるいは狂った、全体として間違った支援要求」
は、必ず、ボロが出ることになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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