01636_法律相談の技法2_初回法律相談のゴール

初回法律相談を行うに際して、ゴールをきちんと把握しておく必要があります。

何事も、ゴールが明確かつ具体的に設定され、そこから逆算して業務を設計し運営しないと、時間と労力と費用の無駄が生じるからです。

初回法律相談のゴールは、(相談対応をする弁護士の啓蒙・教化・誘導によって)

1 相談者が、 「状況の俯瞰・客観視もできず、相場観もわからず、今後の展開も全くわからない」という脳内における混乱(パニックによる一時的な愚蒙)から脱却して、冷静かつ客観的に事態を認知できる状況にまで到達すること(平たく言うと、混乱状況や恐慌状態から脱して、理性を取り戻す。さらにシンプルに言うと、馬鹿が治る、物わかりがよくなる、聞き分けがよくなる)
2 相談者が、(主観における思い込みとは全く異なる)客観的・俯瞰的な状況認知と状況解釈が「概括レベルで」出来るようになること
3 相談者が、(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観が理解出来るようになること、
4 相談者が、「(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観」を前提に、「概括レベルで」展開予測(場合によってはゴールや着地点の予測)が出来るようになること、
5 以上を前提に、相談者が、基本的かつ大枠レベルでの態度決定、すなわち、
(1)本件について、コストや労力をかけて何らかのアクションを取る方向でプランを策定するのか、
(2)本件について、特段のアクションを取らず、とはいえ、ギブアップすることなく様子見して、事態の推移を観察するに留めるのか、
(3)「客観的な状況観察」と「実務上の知見」を前提にした展開予測と現実的期待値をもとに、本件について、時間とコストとエネルギーを投入して何らかの働きかけをすることそのものをあきらめる(=泣き寝入りする、忘れる、捨て置く)のか
をしていただくこと

です。

というのは、案件によっては、いくら事情を掘り下げ、そのために時間とコストとエネルギーを費やしても、構造上・論理上、
「時間とコストとエネルギーを投入して何らかの働きかけをすることそのもの」
が無駄で無益であり、どんなに優秀な弁護士を雇い入れて、どんなに弁護士費用をかけても、
「1万円札を10万円で購入する」
が如く、経済的に無意味な営み、というものが少なからず存在するからです。

例えば、
「15億円貸付けて、きちんとした金銭消費貸借契約書も存在するが、相手方が、倒産して、夜逃げをしてしまったところ、たまたま、隅田川のほとりで、段ボール暮らしをしているところを見つけたので債権回収してほしい」
という相談があったします。

この相談に対する正しい対処課題は、
「相談者において『この事件を一刻も早く忘れ去り、指一本動かさないどころか、0.5秒たりとも、この事案について考えない』というマインドセットが確立すること」
をゴールとした知的啓蒙だからです。

このあたりのメカニズム(「〔一般常識とは全く異質の〕法律実務における一般的な相場観」を前提にした、展開予測〔場合によってはゴールや着地点の予測〕)については、
00996_企業法務ケーススタディ(No.0316):債権が焦げついた!?  債務者を相手に裁判!?  やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!

00640_企業法務ケーススタディ(No.0222):訴訟のコスパ やられたらやり返すな!
に詳細を記しています。

要するに、
「(お金が)ないところからは一銭も回収できない」
「『手元不如意の抗弁』という最強・最凶の支払拒否理由を出されると債権者は手出し不能となる」
という厳然たる法則の前には、どんなに優秀・有能で経験のある弁護士であろうが、どんなにえげつないヤクザだろうが、あるいは国家権力でさえ、無力だからです。

15億円の金銭消費貸借契約書があろうが、100億円の手形があろうが、1000億円の貸付を示す公正証書があろうが、
「隅田川のほとりで、段ボール暮らしをしている債務者」
に訴訟をしようが、強制執行しようが、手に入るのは、ダンボールくらいです。

したがって、
「15億円貸付けて、きちんとした金銭消費貸借契約書も存在するが、相手方が、倒産して、夜逃げをしてしまったところ、たまたま、隅田川のほとりで、段ボール暮らしをしているところを見つけたので債権回収してほしい」
という相談がされた場合、相談を受けた弁護士としては、事情を掘り下げて聞くべきではなく、内容証明郵便で催告通知をするべきでもなく(そもそも隅田川のほとりの段ボールの家に内容証明が届くか、という根源的前提課題もありますが)、保全処分や訴訟の準備をするべきでもありません。

このような相談(回収不能な債権の回収事案)を受けたら、
1 相談者が、 「状況の俯瞰・客観視もできず、相場観もわからず、今後の展開も全くわからない」という脳内における混乱(パニックによる一時的な愚蒙)から脱却して、冷静かつ客観的に事態を認知できる状況にまで到達すること(平たく言うと、混乱状況や恐慌状態から脱して、理性を取り戻す。さらにシンプルに言うと、馬鹿が治る、物わかりがよくなる、聞き分けがよくなる)
2 相談者が、(主観における思い込みとは全く異なる)客観的・俯瞰的な状況認知と状況解釈が「概括レベルで」出来るようになること
3 相談者が、(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観が理解出来るようになること、
4 相談者が、「(一般常識とは全く異質の)法律実務における一般的な相場観」を前提に、「概括レベルで」展開予測(場合によってはゴールや着地点の予測)が出来るようになること、

といった前述の実施手順の下、
「この事件については、『相談者が、一刻も早く事件を忘れ去り、指一本動かさないどころか、0.5秒たりとも、この事案について考えない』マインドセット確立がゴールである」
という
「明確なゴール」
を想定し、
5 以上を前提に、相談者に基本的かつ大枠レベルでの態度決定、すなわち、
(1)本件について、コストや労力をかけて何らかのアクションを取る方向でプランを策定するのか、
ではなく、
(2)本件について、特段のアクションを取らず、とはいえ、ギブアップすることなく様子見して、事態の推移を観察するに留めるのか、
でもなく、
(3)「客観的な状況観察」と「実務上の知見」を前提にした展開予測と現実的期待値をもとに、本件について、時間とコストとエネルギーを投入して何らかの働きかけをすることそのものをあきらめる(=泣き寝入りする、忘れる、捨て置く)

という冷静かつ客観的にみてもっとも正しい決定を行していただく
すなわち、
目の前にいる相談者が一刻も早く
「一刻も早く事件を忘れ去り、指一本動かさないどころか、0.5秒たりとも、この事案について考えない」
というマインドセットが確立されるよう、知的啓蒙・教化・誘導をするべきことが法律相談のゴールとなるのです。

いずれにせよ、冷静に展開予測(筋読み)をして、早期に、明確かつ具体的かつ現実的なゴールを設定し、当該ゴールに向けて、相談者に働きかけ、相談者との認識ギャップや解釈ギャップや知的ギャップを埋めることが、初回相談で行うべきこととなります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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