民法715条1項では、
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」
と規定しています。
これは、使用者は、被用者を使用して自己の活動範囲を拡大し利益を得ているのだから、事業の執行について被用者の行為により被害者に損害が生じた場合には、使用者にも賠償責任を負わせるのが公平である、との考え方(報償責任)によるものです。
この趣旨からすると、企業が従業員のヘマで迷惑をかけた相手方に賠償するのは、
「本来、従業員が自分で負担すべき賠償責任を、企業が代わりに、負担してやる」
というタイプの責任の取り方(代位責任)ということになります。
実際、民法715条3項では
「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」
と規定していますので、会社が、ヘマをやらかして損害を発生させた足立に賠償請求するのは何ら問題なさそうです。
ところが、最高裁判決(昭和51年7月8日判決)において、最高裁は、
「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合、使用者は、諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」
と判断して民法715条3項の明文の取扱を変えてしまいました。
最高裁が
「いかに代位責任とはいえ、企業から従業員への求償請求は無制限にはさせんぞ」
と釘を指す法理を構築したのは、報償責任の原理や危険責任の原理(会社はその指揮命令の下で働かせている以上、そこで生じる危険発生については使用者にも責任がある考え方)が背景にあるようです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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