1 株式会社の利害関係者
組織体である企業には、様々な思惑を持った利害関係者が集まります。
株主は株主としての思惑をもって企業に参加しますし、経営者は経営者なりの考えがあります。
一括りに
「株主」
といっても色々な種類の株主がいます。
株を長期間保有する株主
もいれば、
「午前中に株式を購入したら午後3時までにはすべて売っ払って株主でなくなる」というトレーダー
もいます。
「企業の組織運営についての株主の考え」
といっても、その具体的内容は株主毎に異なります。
というか、そもそも
「株価の動向には関心があるが、企業の組織運営なんぞまったく興味がないし、どうでもいい」
という株主も相当数存在します。
2 株式会社の統治秩序と内部統制
とはいえ、企業も組織である以上、
(1)誰がボス(トップ)かを決め、
(2)企業を運営する方針を決め、
(3)従業員に企業が決定した方針に従わせる、
ということが必要になります。
上記(1)及び(2)が企業統治(コーポレートガバナンス)と呼ばれる経営課題であり、(3)が内部統制と呼ばれる経営課題です。
3 誰をトップにするか
(1)のトップの選出については、株主総会で出資口数に比例した多数決(資本的多数決)により取締役を選出します。
そして、取締役会における多数決で、企業のトップ、すなわち代表取締役が選出されます。
企業運営が正常に行われている場合、
「トップは誰か」
という企業組織の根本的な事柄が曖昧になったり、モメたりするようなことはまずありません。
しかしながら、現実の企業社会においては、
「トップは誰か」
という企業組織運営において根本的な事柄をめぐって激しい紛議が生じることがあります。
古くは老舗百貨店三越の社長解任劇(1982年、三越の取締役会において、突如発議された代表取締役解職決議案が満場一致可決成立し、当時のワンマン社長が、取締役全員に裏切られる形で、非常勤取締役に降格させられた事件)が有名です。
また、最近では、総合電機メーカー富士通の“お家騒動”(辞めたはずの前社長が「オレは辞任した覚えも、解任された覚えもない。反社会的勢力と付き合いがあった云々は事実無根の因縁だ」という趣旨の反論を展開し、訴訟沙汰になった)など、
企業が「誰がトップなのか、明確に定まらない」という異常事態
に陥ることがあるのです。
4 どういう方針を採用するか
また、(2)企業の経営方針についても、大きな混乱が生じることがあります。
“ホリエモン”こと堀江貴文氏が率いるライブドアがニッポン放送の株を買い占めて同社筆頭株主に踊り出た際、筆頭株主たるライブドアとニッポン放送経営幹部とで企業経営の基本方針をめぐって重篤な対立が生じ、これがきっかけとなって訴訟沙汰に発展しました。
“モノ言う株主”として名を馳せた村上世彰氏率いる村上ファンドは、多数の株式を取得した会社に対して
「会社を解散し財産を株主に配当せよ」
「会社所有のプロ野球球団を上場したほうがいい」
など、現経営陣の策定した経営方針に強烈に異議を唱え、大きな議論を呼びました。
このように、企業において
「株主と経営陣の間で紛議が生じ、経営方針が定まらず、混乱する」
ということも起こり得るのです。
5 どうやって決められた方針を従業員に従わせるか
(3)の内部統制についても同様です。
企業の組織内部が適正に統制されていれば、企業トップが定めた組織運営方針は、組織の末端に至るまで適正に遵守されます。
しかしながら、
「企業トップあるいは上層部が策定した組織運営方針を、現場の従業員が無視あるいは軽視し、法令違反その他の重大な事件や事故に発展する」
という事態がしばしば起こります。
旧大和銀行ニューヨーク支店において現地トレーダーが独断で巨額投資を行って莫大な損失を発生させた事件や、総会屋への利益供与事件や談合やカルテルなど、現場が暴走して、内部統制上のトラブルを惹き起こすケースは枚挙に暇がありません。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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