1998年に一時国有化された日本長期信用銀行(長銀、現:新生銀行)の売却交渉の際、外資系ファンドであるリップルウッドがウォールストリート流の交渉戦略を駆使し、8兆円超もの公的資金が投入された長銀をわずか10億円で買収しました。
その後、リップルウッドは
「譲渡から3年以内に、当初の正常債権の判定に瑕疵が生じ、簿価より2割以上目減りした債権は預金保険機構に買い取らせることができる」
とした瑕疵保証条項を発動し、預金保険機構に1兆円を超える不良債権を買い取らせるなどし、長銀は新生銀行として再生しました。
同行の上場益として2200億円以上の利益を得ることに成功しましたが、リップルウッドによる投資の母体となった組合は海外籍であったため、日本政府は、当該売却益に対し、日本での課税すらできませんでした。
この顛末は、
「日本を代表するトップエリートである大蔵省のキャリア官僚と、ウォール・ストリート・ロイヤー(米国屈指のNYの金融街で活躍するビジネス弁護士)が激突した頭脳戦で、大蔵官僚が惨敗した」
という象徴的出来事として捉えられますが、
「ウォール・ストリート・ロイヤーが駆使するアングロ・サクソン流の法務テクニックや交渉スタイルが、大蔵省を赤子のように翻弄する、圧倒的なパワーをもつこと」
を日本の産業社会がまざまざと思い知らされたエポックメイキングな事件とも考えられます。
このように優秀なビジネス頭脳とこれを実現するための犀利な法務戦略を有する外資系企業の活躍や、ベンチャー企業による敵対的買収の動きが資本市場を席捲します。
それまでの日本の伝統的産業文化とは全く縁がなく、経済合理性と戦理に適った法の活用を得意とする外資系企業等の活躍事例を目の当たりにし、日本の産業界は、世界レベルの高度な戦略法務技術を知り、これを活用するトレンドが形成されるに至りました。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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