落語で出てくる大家と店子の諍いのように
「この野郎、店子の分際で大家に楯突きやがって! ええい、うるせえ! 店あげてどっか行きやがれ」
なんて形で借家人の事情を無視して大家の都合だけで借家契約がいきなり解除されると、借家人が住む所を失い、町はたちまち浮浪者が増え、社会不安が増大します。
こういう事態を防止するため、社会政策立法として借地借家法が定められており、かつ司法解釈としても借家人を保護する解釈姿勢が長年積み重ねられてきた結果、現在においては、
「貸したら最後、譲渡したのも同じ」
といわれるほど、借家人の立場は強化されてきました。
すなわち、借家契約が一度締結されると、原則として、借家人側が出ていかない限り、契約は半永久的に更新されていき、借地借家法により強力に保護された借家人を追い出そうとしても、大家側は、多大な立ち退き料を支払う必要が出てくるのです。
このような解釈は、一般住宅に限ったものではありません。
商業施設における物件賃貸借についても、当然に借地借家法が適用され、プロパティオーナー側は、いったん物件賃貸契約を締結したら最後、
「こちらの都合だけで自由に解除できない」
という極めて大きな不利益を被ることになるのです。
例えばワゴン販売をさせるという契約は、スーパーやデパート等の経営者からすると、時機に応じて業者を代えたいこともあるでしょうし、売り場のリニューアル等の都合で営業場所を変更させたいというニーズもあるでしょう。
そういった場合、ワゴン業者との契約に借地借家法を適用させず、いつでも気ままに契約を解除できるような方法はないのでしょうか。
そもそも、借家契約(賃貸借契約)とは、
1 ある物を特定した上でこれを独立した立場で使用収益させ、
2 当該使用収益の対価として賃料を支払うこと、
の2つを本質的要素としています。
逆に考えれば、ワゴン業者を独立の占有主体ではなく、単に
「商品販売を実施する代理業務を行っているにすぎない者」
と解釈されるような工夫を事前にしておけば、スーパーとワゴン業者との契約関係については賃貸借契約の本質的要素のうち1を欠くものと扱われ、借地借家法の適用を排除し、ワゴン業者の適宜追い出しや、営業場所の変更が可能になってくる、ということになります。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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