従業員の退職撤回・覆滅にまつわる事件は枚挙にいとまがなく、裁判例も数多く存在します。
これらトラブルは、会社からの退職勧奨が起因となっていることが多く見受けられます。
裁判となって会社が勝訴したとしても、会社側にとっては経過そのものがリスク、となり得ます。
年単位の裁判に関わらされ、薄氷を踏むような勝利であった事実は、経営そのものに影響がなかったとはいえないからです。
たとえば、以下の事件では別の論理で最終的に会社が勝訴しています。
引用開始==========================>
【事件番号】大阪地方裁判所判決/平成26年(ワ)第8169号
【判決日付】平成27年11月26日
(前略)
2 争点1について
(1) 争点1
ア(原告が,7月29日の面談において,本件退職の意思表示を撤回したか否か)について
(中略)
本件退職の意思表示は,合意退職の申込みであると解されるところ,原告は,7月22日及び同月29日の面談を通じ,原告が働き続けたいという意向を有する限り,これに反して退職させることはできず,妊娠・出産に伴い休暇を取得したいというのであれば,原告の要望を容れるので辞めないでほしいという監査役の言葉に感謝するとともに,これを受け入れ,その具体的な日程・段取り等については監査役に任せると述べたものと認められる。
そうすると,原告は,上記両日の面談をもって(最終的には,7月29日の面談をもって),合意退職の申込みである本件退職の意思表示を撤回したものと認めるのが相当である。
イ 被告は,本件退職の意思表示は,被告の退職勧奨なしに原告が自発的に行ったものであることをもって,これは合意退職の申込みではなく,これが被告に到達した時点で退職の効果が発生し,撤回することができないと主張する。
しかしながら,被告の退職勧奨がなかったことから,直ちに,退職願の提出をもって退職の効果が発生するとはいえないし,また,その後の原告の対応を見ても,退職願を提出したことの一事をもって被告との労働契約が解消されるという前提で行動していないことは明らかであり,被告の就業規則における退職の手続(前提事実(2)エ)にも併せ鑑みると,本件退職の意思表示が被告主張のようなものであると解釈することはできず,被告の上記主張は採用することができない。
(以下、略)
<==========================引用終了
労務問題対処実務においては、
「揉めてから考える」
のではなく、
「揉めないようにするため、事前に出来ることは、全て疎漏なく尽くしておく」
という不文律が確立しています。
「揉めた」
場合、その時点で、すでに解消困難なリスクが出現している可能性があり、対処行動上の選択肢が非常に限定された状況となります。
話を戻すと、 会社側が退職勧奨をする場合、
「揉めないようにするため」
のお作法がある、ということになります。
さらにいえば、従業員に退職勧奨する前の段階において(たとえば、休職中や定年など)、
会社は、
「事前に出来ること」
を
「全て」
洗い出すなど、心づもりしておくこと(人事担当者の教育を含めて)も、リスクを軽減する、という意味と意義においては有効でしょう。
労務問題対処を適切に行う経営者の多くは、 平時より、実務経験に照らした状況評価や展開予測とこれに対する対処行動上の
「選択肢」
について、弁護士と密接にやり取りを交わしています。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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