売買契約は、当事者の
「売る」「買う」
という意思の合致によって成立します(民法555条)。
そして、いったん契約が成立すると、当事者は、契約に拘束され、一方的に解約等をすることは原則としてできません。
もちろん、相手方に契約条項の違反等があり、それにより当事者が契約に拘束され続けることが不当だと思われるような場合には、解除や損害賠償といった手段が用意されていることはご存じのとおりですが、あとから考えたら不利だから
「やっぱヤンペ! ノーカン、ノーカン!」
なんてことはできません。
他方、
「オイシイ取引があるが、最終的に契約するかどうかちょっと考えたいので、しばし、ホールドしておきたい」
というときに、ツバを付けておく趣旨で、手付金が交付される場合があります。
この
「手付金」
ですが、よりよい条件での契約を締結できるよう、自由な取引を保護する趣旨で、
「売り主は、受け取った手付金の倍返しをすれば負担なく契約を解約できる(買い主は、差し入れた手付金を放棄すれば負担なく契約を解約できる)」
ことを意味し、
「解約手付」
と呼ばれます。
しかし、このような手付金の交付がなされていた場合、
「わずかなカネで、何カ月であれ、何年であれ、気の向くまま解除が認められる」
というのでは、そんな不安定な関係を強いられる相手方としてはタマったもんじゃありません。
契約から引き渡しまでに一定の時間と手間が必要な取引を考えてみれば、ある程度履行の準備をした後は、
「他との取引のチャンスはもう考えず、相手のためだけに履行を完了しよう」
という信頼関係が構築されます。
いくら手付金のやり取りがなされているからといって、自由に解約が認められるべきとは考えられません。
そこで、民法557条1項は
「買い主が売り主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」
解除できるとしております。
すなわち、この反対解釈から、
「いくら手付が打たれているからといっても、一度、相手方が履行に着手したら、手付を使った解除はできない」
というルールが導かれるのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所