2017年4月、日本郵政は、2015年5月に買収した豪州の大手物流会社、トールホールディングスについて4003億円の特別損失を計上すると発表しました。
買収の際には、のれん、商標権として52億7600万豪ドル(5048億円)を計上していました。
例え話を使って、ざっくりいいますと、5048万円の3LDKの投資用マンションを買ったところ、2年投資運用しても全然家賃収入が入ってこないので、よく調べたら、実は、ボロいワンルームの部屋で、1000万円程度の価値しかなく、4000万円ほど損していたことが判明した、という趣の話です。
経営陣が敗戦の弁を語る様子が、
https://www.logi-today.com/286558
に克明に記されています。
記録って重要ですね。
過去の愚行を克明に記し、未来に向けて晒すことで、歴史に学び、愚行を避け、賢く行動することができる。
上記会見の中から、M&Aを検討する全ての企業経営者がふまえておくべき教訓とすべき印象的なやり取りをピックアップしておきます。
なお、ツッコミどころ満載なので、筆者注、という形で筆者の意見等を付記しております。
――日本郵政は無謀なことをやっている認識があるのか。郵便配達と国際物流はまったく別物で、物流をわかってる人はトール社にどれだけいるのか。親会社として子会社をきちんとチェックできていたのか。
長門氏:自社にないノウハウを持つ会社を買えるのか、という指摘だと思うが(←筆者注:ノウハウの問題ではなく、土地勘の問題ではいか。)、自動車工場を買ったわけではない( ← 筆者注:自動車工場なみに違う分野ではなかったか。そもそも、土地勘すらなかったことを理解していなかったのではないか)。さらに成長するために、自分たちと近いところを買ったほうがいいのなら買うという判断だった。準備できてから買うというのは順番が逆( ← 筆者注:準備できていないのに買い物をするからこそ失敗する。それこそ順序が逆)。トール社は自社の事業に割と近いと思っていたので、手を出した。ただそもそも6200億円という買収金額は高かった(←筆者注:「高い」ではなく、「凄まじく高く」、かつ、カモられた、とみるべき)。
横山氏:素人だから見えることもある(←筆者注:素人だからこそ、鉄火場に来てはダメ)。日本郵便は宅配を手がけているが、トールも豪州の宅配事業が中核事業の一つだ(←筆者注:それほどよくわかっている事業分野というなら、なぜ凄まじい高値掴みをしたり、PMIに失敗したのか?)。
――今後も国内外でM&Aを継続するといったが、高値づかみ、ポストマージャー戦略が描けていない、証券会社の「カモ」にされている面もある。なぜ日本企業はこんなに買い物が下手なのだと思うか。
長門氏:高値づかみは欲がそろばんに勝った場合に起こる(←筆者注:ローンでブランド物買って自己破産する若者じゃないんだから、もうちょっと理性的になるべきだったのでは?)。ポストマージャ―戦略については、買った方の企業も(買われた方と)同じ血を流す気でやらないとできない(←筆者注:買われた方は、新しいオーナーが「どこか遠くの国の、目が節穴の、ド素人」とわかったら、学級崩壊よろしく、サボリまくるもの)。
――今回の欲は何だったのか。
長門氏:「海外もできるといい」ということだったと思う。(←筆者注:大きな海外進出は、地味で小さな失敗を積み重ねて、できるようになってから、にすべき)
横山氏:自社の身の丈よりも高ければ、身の丈に合うまで待つべきだった(←筆者注:これはその通り。ただ、大きな買い物の前に知っておくべきだった) 。統合を決めるまでに、シナジーが何なのかを買うまでにはっきりさせる必要があった(←筆者注:結婚して何をしたいか、というのは結婚前に考えておくべき) 。PMIはこれでやるんだということをはっきりさせるべきだった。
「今まで車など見たこともない金を算出する某国の王子様が、はじめて日本にやってきて、人生ではじめて軽自動車をみて、凄まじい便利さに感動し、随行していた通訳兼アドバイザーに相談した上で『その軽自動車を適価で買いたい』と伝えたところ、『持参していた500万円相当の金のインゴットと中古軽自動車とを交換する』という形で話がまとまり、得意絶頂で、母国に軽自動車を持って帰り、2年間乗り回していた。しかし、その軽自動車が時価100万円を下回ることを知り、400万円損したことが判明した」
のと類似した状況が浮かび上がってきます。
値段や相場がよくわからないものを、よく調べないまま、あわてて買って、カモにされた、という話ですね。
以上を、教訓として単純化すれば
1 よくわからないM&Aには手を出さない
2 買った後の投資回収シナリオを考えて買う
3 買ってからどうしたいか、準備できてから買う
4 身の丈のあった買い物をする
5 買い物においては、
①「カモ」にされる現実的リスクと、
②「ニコニコしながら、揉み手をしながら味方や仲間のふりをして近づき、当事者の横にいて『カモ』にしようとして周囲に蠢いている方々」の存在する現実的可能性、
の両方をわきまえておく
6 5をわきまえた上で、「カモ」にされないようにする
ということになりますね。
以上は、海外にいって、よくわからない骨董や民芸品を買うときの注意点とほぼ同じです。
他方で、ニッポンの社長さんたちは、そういう小さな失敗経験をしたことがないためか、あるいは他人のカネで買い物できる、という気軽さからか、数千億単位で、ロクでもない骨董や民芸品のような企業を買って、取り返しのつかない大失敗をよくされます。
皆さん、気をつけましょうね。
者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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