02204_民事証人尋問を控えた”関西”のお客さん向け「尋問手続のトリセツ(取扱説明書)」

日本の民事裁判は
“真実かどうか”
で勝つんやない。
“筋が通って見える話+客観証拠[紙の証拠]に寄り添ってるか+堂々さ”
で勝つ。
テレビの勧善懲悪はお花畑。
ここは、何でもあり、あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技、裏技が横行する素手の殴り合いの泥のリング、戦場、修羅場や。
謙虚で真面目で小声で優しく思いやりがあり空気を読む同調性の高いカタギの衆がボロ負けして、何の仕事をしているかようわからん会社の社長や反社のような「堂々とした嘘つき」が勝つことがある。
ほんまかいな?
いや、ありまんねん。
そんなことが普通にありまんねん。
それが、日本の民事訴訟の怖いところですねん。

1) なぜ「堂々とした嘘つき」が勝つんか

  • 裁判官の脳みそはスコアラーや。
    「一貫性」「具体性」「外形証拠(書面・ログ)との整合」「態度の安定」――この4点で点を入れる。内容の“真偽”より“整合”が強い。
  • 偽証は実務でほぼ動かん。警察ドラマみたいに即パクられる世界やない。せやから平気なツラで押し切る奴が出てくる。
  • 時間制限と書面主義。尋問は短い。深掘りしきる前にタイムアップ。早口で自信満々に“塗り固め”られた物語は、崩す時間が足りん。
  • 人間は自信に引っ張られる。声デカい・即答・ブレない――この3点セットは“信用”の擬似通貨や。
  • 「塗り壁リスク」。敵を追い詰めたつもりで「理由は?背景は?」と掘るほど、相手の物語が分厚く固まる。壁を叩いたら、漆喰が増し塗りされる。それが塗り壁。

※塗り壁: 弁護士が反対尋問(相手方の証言の信用性を崩すための尋問)を行っているにもかかわらず、結果として証人に相手方(主尋問側)に有利な証言内容をより詳細に、あるいは説得力をもって補強・固着させてしまう現象

2) 反対尋問は“説得”やない。“制御”や

  • 原則:オープン質問禁止(「なぜ?」「どう思った?」は地雷)。
  • 手口:誘導質問でYes/Noを刻む。目的の事実だけ短く切り出して回収。
  • やったらアカン:道徳説教・常識論・人格攻撃。裁判官は興味ない。
  • 狙い:嘘を「暴く」んちゃう。“信用し切れん部分”を裁判官の心に残す。皆までいうな。余韻を残す。行間と余白で裁判官に評価させる。寸止め。トドメは裁判官に刺してもらう。それで十分や。

3) 当方証人への反対尋問対応上の“鉄の掟”

  1. 初手は長セリフ禁止:回答は「はい/いいえ/わかりません/記憶にありません」+必要最小限の一文。
  2. 都合が悪ければ推測もあり:見た・聞いた・自分でやったはもっとも強力な弁解。都合が悪いときは、推測に頼らざるを得ない。「多分」「だと思います」「そんなはずないでしょ」は信頼性がないので極力封印だが、真顔ですっとぼけして、うまいことすり抜ける、というような「いざ」というときの逃げのときには解禁。
  3. 感情語や形容表現は極力使わない:「ひどい」「常識的に」はゼロ点ワード。事実だけが雄弁。
  4. 沈黙に耐えろ:間が怖くて喋り足すな。沈黙は無料、余計な一言は致命傷。質問が端的ではなく、わからなければ何度も聞き返してもいい
  5. 相手方弁護士の尋問ミスは最大限利用:相手方から背景・動機・評価を聞かれたら、独壇場。客観証拠に反しない程度と範囲で、どんどんストーリーを語れ。ただし、そこで、客観証拠との矛盾や不整合があると沈没する。ストーリーを語る際には、客観証拠との不整合に注意。
  6. 矛盾の修復:矛盾を突かれたら、体験、経験、事実と認識で説明。「実際、そうだったんだから、仕方がない」「私は明らかにそう認識していたのだから、それを非難されても困る」「事実は私が話したとおりなので、おかしいと言われても、事実しか話せない」と、臆せず、恥ずかしげもなく、堂々と、きっぱりと説明。ただし、客観証拠に反しない程度と範囲で。
  7. 記憶の線引き:「覚えてない」は逃げやなく誠実な答え。「今、緊張していて、頭が真っ白になっているかもしれません」「陳述書をみたら思い出すかもしれない」「メールをみたら思い出せるかもしれません」「メールの前後から、文脈や経緯をみないとわかりませんので、みせてもらえますか」と時間稼ぎをする。あなたは主演俳優。何度も撮り直しても、あなたの独壇場。周りの迷惑考えるな。時間をかける。
  8. 相手にキレない:挑発・皮肉は相手の見せ場。怒った瞬間、負けフラグ。さらりと躱す。「それって、あなたの意見ですよね」「ここは論争の場ではないですよね」「皮肉を言われたり、侮辱されたりするような場所なんですか」が返しの必殺技。
  9. 合図待ち禁止:顔色読むな。質問を聞き、短く、裁判所に向かって、堂々と、胸を張って答える――それだけ。

4) 敵が「堂々嘘つき」のときの潰し方(やり込めるんやない、“窒息”させる)

  • 二択で囲う:
    「Aでしたね?―はい」→「ではBではない?」→逃げ道を塞いで面を小さく。
  • 時刻・距離・所要時間で“再現性テスト”:体験談は物理で裂ける。
  • ログと書証にアンカー:メールや紙(データ)が王。
  • 深追い禁止:矛盾が出た瞬間に止める。説明させたら塗り壁。
  • 態度を“無害化”:ドヤ顔・過剰即答を淡々とYes/Noで刻んで“作り物”に見せる。

ポイント:「嘘です!」とは言わん。裁判官に“この部分は信用しにくい”という処理の口実を静かに手渡す。これが実務の勝ち筋や。

5) 対応の型(当日の動き)

  • 最初の30秒が命:声量普通やや大きめ、速度やや遅め、語尾に行くほどゆっくり、語尾は明確に(歌舞伎調)。“安定”で点が入る。視線は「質問者→裁判官:答えの最後だけ裁判官」へ。“お奉行所のお奉行様”に”善良な町民として、正しい情報提供のご奉仕”の態度。
  • 聞き直しは堂々と:「質問が長いので、要点をもう一度お願いします」「質問がわかりにくいです」「何を聞かれていますか」。恥やない、武器や。
  • 体が勝手に喋り足す奴へ:両足を床にべったり、膝で止める。手は机上で組む。
  • 水分とメモ:喉が乾くと嘘も真実も滑る。水は許可をもらえば持ち込める。水一口でリズムを取り戻す。「反対尋問のときにには、質問の度に、『水呑んでいいですか』と水を呑んでから答える」ツワモノもいるぞ。そして、その間に、弁護士からは異議の連発。そして、反対尋問は時間切れ。

6) よくある自爆 ⇒ こう言い換えろ

  • 「普通は~」→ 「私はその時こう認識しました」
  • 「多分」→ 「明確な記憶はありません/確定できません」
  • 「ひどい扱いでした」→ 「Aという事実がありました」「Bという事実がありました」「Cという事実もありました」「Dという事実もありました」「ひどいか?まあ、それは裁判官のご想像にお任せします」
  • 「正直に言うと」→ そんなん要らん。そのまま端的に答えろ(前置き不要)

7) ここ、絶対に勘違いすんな

  • 裁判所は“真実の神殿”やない。“整合の裁定所”や。
  • 正直者が勝つんやなく、「正直“に見える構図」を作った側が勝つ。
  • 反対尋問勝ち筋は“嘘を暴く”やない。“嘘つきを泳がせず、肥らせず、窒息させる”ことや。
  • あんたの役割は主人公やない。遊びをもたせた、精密部品や。客観証拠とズレたら機械が止まる。ただ遊びはあってもいい。客観証拠と整合する範囲で、遊びをたもたせつつ、範囲をこえてズレたり、足したり、盛ったりせず、よく動くが、適度に遊びがある、ただ、全体として俯瞰すると稼働がムチャクチャ完璧な精密な機械となれ。

8) 反対尋問対抗策

  • 沈黙OK、間は味方。時間を使え、気は使うな。気まずい沈黙をお友達にして、ヤな奴になれ。決して、慌てるな、相手の要求するスピードやペースに同調するな。自己中心的で空気を読まない王様、女王様が吉や。
  • 聞き直してから答えるはあり。
  • “覚えていない”は正しい答え。クイズ番組やないから、覚えてない、知らない、忘れたからといって席がくるくる回って下に落ちることはあらへん。
  • 怒らない、笑わない、驚かない。
  • 紙(ログ)と自分のストーリーに寄りかかれ、相手の物語や経路に寄りかかるな。相手は同調と経路依存に嵌め込もとうとするから、その罠に絡みとられるな。

9) 尋問という名のゲーム

裁判は“道徳””正直者”の大会やない。
“手続”と“整合”の競技や。
ここで生き残るのは、素直で謙虚で真面目な人間やなく、自分の口を徹底管理し、堂々と振る舞える人間。
こっちは嘘つきを殴り倒すんやない。呼吸を整えさせずに、静かに点を取り切る。それが“プロの勝ち方”や。
こちらは、ブレずに動く。

逆に、相手に調子に乗らせてブレさせる。あるいはブレたようにみせる。ブレたら、どんどんゆらしてブレを大きくする。

こんだけ、言うたら、まあ、わかると思うけど、それでもわからんかったら、ド手前からの話を書いた次の話も参考にしといてくれ。

10) 違和感の正体―テレビの見過ぎで頭がお花畑になっとるんちゃうか―

「民事証人尋問」という、わかっているようで、なかなか理解不能な、
「日本における(✕アメリカにおける)」
「実際の訴訟現場での(✕テレビドラマや映画での)」
民事尋問手続きを手前から説明しとくわ。

(1)裁判所はウソを憎むか
・一般常識:裁判所は真実と正義を愛し、ウソを憎む
・実務知見:裁判所は、ウソとかホントとかどうでもいい。とにかく、関係証拠からして、筋の通った説明して、ブレたり、同調したりせず、オドオドせず、はっきり、くっきり説明してもらえば、それがウソっぱちでも、それをホントとして扱う

(2)裁判所の前で、堂々とウソをつくような、そんな大胆な非常識な人間がいるのか
・一般常識:そんな犯罪者のような人間は皆刑務所にいるはずで、民事裁判の場でうろちょろしていないはず
・実務知見:民事裁判ではそんな連中ばかり、というのがデフォルト。バカ正直で奇特な素人は、みな、バカをみているし、裁判官も薄ら笑いしている

(3)裁判でウソをついたら偽証になるから、ウソをつかないだろう
・一般常識:偽証罪があるからウソをつかないはずだ
・実務知見:偽証の検挙率は、0.0数%。

(4)裁判で正直なことを言わないと良心の呵責に耐えかねて泣き崩れる
・一般常識:ウソをつくと天国にいけなくなるので、みな、正直に話す
・実務知見:ウソ泣きをする奴はいるが、良心の呵責に耐えかねて泣くような奴はアホ

(5)反対尋問で、都合の悪いことや、矛盾していることや、一般常識に反することを指摘されると、慌てる
・一般常識:ウソが見抜かれ、慌てて、ガクガク震えだし、裁判官は身を乗り出して確認し、ウソをついた人間が顔が真っ青になって、真実を語りだし、敗北する。そして巨悪は倒され、正義は勝つ
・実務知見:都合の悪いことを言われようが、矛盾していようが、一般常識からしてありえないといわれようが、断固として、堂々として、「おかしいと言われようが、私の経験です」「私は当時、そう認識していました」「おかしいとか矛盾とか常識とか、それはあなたの意見でしょ。尋問は意見を戦わせる場所ではなく、事実や認識を確認する場です。威嚇するのはやめてください。警察の取り調べじゃないんですから。事実は事実、認識は認識。あなかたから脅されても変えるつもりはありませn(キリッ」と対応され、裁判官は、うっとりと、惚れ惚れと、みて、「この証人が保証したので、その事実に乗っかろう」との意を強くする

(6)反対尋問では、おかしな点、矛盾の点、常識に合わない点をみつけて、それはおかしい、あんたは狂っている、矛盾している、と指摘し、やり込めるのが正しい
・一般常識:これは絶対そう。テレビや映画で、それをするのがデキる弁護士。
・実務知見:理由や、気持ちや、主観や、経緯説明や、背景説明や、矛盾弁解をさせると、ペラペラ喋りだし、どんどん相手の主張が補充されてしまう。制御できないゲームになる。とくに、相手が、本当の裁判をわかっていて、筋金入の嘘つきなら、こちらが窮地に陥る。そういうテレビや映画の反対尋問をして悦に入っているのは、学生や、修習生や1年目の弁護士。そんな弁護士に人生預けるクライアントは、ご愁傷さま。

最後に、もっと深堀りしたいときは、↓を読んで勉強しといて。

01551_ウソをついて何が悪い(1)_一般社会常識における「ウソ」
https://9546.jp/2020/07/19/01551_%e3%82%a6%e3%82%bd%e3%82%92%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e4%bd%95%e3%81%8c%e6%82%aa%e3%81%84%ef%bc%88%ef%bc%91%ef%bc%89/

01552_ウソをついて何が悪い(2)_「ウソ」は犯罪か?
https://9546.jp/2020/07/19/01552_%e3%82%a6%e3%82%bd%e3%82%92%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e4%bd%95%e3%81%8c%e6%82%aa%e3%81%84%ef%bc%88%ef%bc%92%ef%bc%89/

01553_ウソをついて何が悪い(3)_「ウソ」をつく自由と権利
https://9546.jp/2020/07/19/01553_%e3%82%a6%e3%82%bd%e3%82%92%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e4%bd%95%e3%81%8c%e6%82%aa%e3%81%84%ef%bc%88%ef%bc%93%ef%bc%89/

01554_ウソをついて何が悪い(4)_「ウソつき」は社会的成功のはじまり
https://9546.jp/2020/07/19/01554_%e3%82%a6%e3%82%bd%e3%82%92%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e4%bd%95%e3%81%8c%e6%82%aa%e3%81%84%ef%bc%88%ef%bc%94%ef%bc%89/

01555_ウソをついて何が悪い(5)_「ウソつき」人口密度がもっとも高い裁判所
https://9546.jp/2020/07/19/01555_%e3%82%a6%e3%82%bd%e3%82%92%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e4%bd%95%e3%81%8c%e6%82%aa%e3%81%84%ef%bc%88%ef%bc%95%ef%bc%89/

01556_ウソをついて何が悪い(6)_裁判官は「ウソつき」に対する強い免疫・耐性をもつ
https://9546.jp/2020/07/19/01556_%e3%82%a6%e3%82%bd%e3%82%92%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e4%bd%95%e3%81%8c%e6%82%aa%e3%81%84%ef%bc%88%ef%bc%96%ef%bc%89/

01557_ウソをついて何が悪い(7)_ 裁判では「ウソ」はつき放題
https://9546.jp/2020/07/19/01557_%e3%82%a6%e3%82%bd%e3%82%92%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e4%bd%95%e3%81%8c%e6%82%aa%e3%81%84%ef%bc%88%ef%bc%97%ef%bc%89/

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