02220_ケーススタディ:取引先倒産! 破産管財人からの「底引き網」請求に慌てるな_社長個人への支払いは有効か?

「取引先が倒産した! しかも、破産管財人から『売掛金を払え』という通知書が届いた!」 
「いやいや、もう社長個人に払ってしまったし、そもそも契約相手は法人ではなく社長個人のはずだが・・・」

取引先が破綻した際、裁判所から選任された
「破産管財人」
から、有無を言わさぬ請求書が届くことがあります。

弁護士名義の仰々しいFAXや内容証明郵便を見ると、つい
「払わなければならないのか」
と萎縮してしまいがちです。

しかし、慌てる必要はありません。

管財人の請求が常に正しいとは限らないからです。

彼らは職務上、あえて
「ダメ元」
で網を広げている可能性があるのです。

本記事では、破産管財人からの請求に対して、
「契約当事者の別人格性」

「支払の前後関係」
を武器に、不当な二重払いを回避するための法務戦略を解説します。

【この記事でわかること】

• 破産管財人が行う「底引き網」的な債権回収の実態とその背景
• 「法人」と「社長個人」の別人格性を利用した反論ロジック
• すでに支払い済みである場合の法的な対抗要件と交渉術

【相談者プロフィール】 

株式会社キッチリ・ペイメント 管理本部長 堅山 守(かたやま まもる、52歳) 
業種:システム開発・ITコンサルティング

【相談内容】 

先生、驚きました。 

当社の長年の外注先であるウェブデザイン会社
「株式会社ザル・プランニング」
が破産したそうなんです。

そこまでは昨今の情勢を考えればあり得る話なのですが、裁判所から選任されたという破産管財人の弁護士から、いきなりFAXで 
「未払いの制作料300万円を、直ちに管財人口座へ振り込んでください」
という請求書が届いたのです。

確認したところ、その制作料は、今朝一番に、代表の羽田氏の個人口座へ送金済みでした。 

これでは二重払いをしろということになりませんか? 

それに、そもそも当社が契約しているのは、法人である
「株式会社ザル・プランニング」
ではなく、代表の羽田氏(個人)なんです。

契約書の名義も個人の実印が押されています。

しかし、相手は裁判所のバックがついている管財人ですし、弁護士の先生です。

言われた通りに払わないと法的にまずいことになるのでしょうか?

管財人の「底引き網」漁法

破産管財人からの通知書や請求書は、受け取った側からすると、まるで
「お上の命令」
のように感じられ、心拍数が上がるものです。

しかし、ここで思考停止してはいけません。

彼ら(管財人)のミッションは、破産財団(債権者に配当するための原資)を1円でも多く確保することです。 

そのため、破産会社の帳簿やメールをざっと見て、
「あ、ここから金が取れそうだ」
と思ったら、とりあえず
「底引き網」
を投げてくる習性があります。

精査する時間がないため、
「数打ちゃ当たる」戦法
を取らざるを得ない事情もあるのです。

「法人」と「個人」は赤の他人

法律の世界では、生身の人間(社長個人)と、法人(会社)は、
「まったくの赤の他人」
として扱われます。

たとえ社長が100%株主であったとしても、法的には
「別人」
です。

破産管財人は、あくまで
「法人」
の財産を管理する人であり、
「社長個人」
の財布を管理する権限はありません(社長個人も同時に破産していない限り)。

したがって、社長個人との契約に基づくお金を、会社の管財人が請求してくるのは、
「隣の家の人が破産したからといって、その隣人があなたの給料を差し押さえに来る」
のと同じくらい、筋違いな話なのです。

タッチの差の法的効力(対抗要件)

債権回収や破産の世界は、
「早い者勝ち」
の非情なルールで動いています。

管財人からの通知(破産開始決定の通知や支払請求)が届く前に、善意で(破産の事実を知らずに)本来の債権者へ支払ってしまった場合、その支払いは有効です。 

これは、サッカーのゴールライン・テクノロジーのようなものです。

ボール(お金)がラインを割った(送金された)のが、ホイッスル(管財人の通知到達)より先であれば、ゴール(弁済)は認められます。 

「入れ違いで支払い済みです」
この事実があれば、管財人は
「二重払い」
を要求することはできません。

【今回の相談者・堅山 守氏への処方箋】

 堅山部長、慌てる必要はありません。 

相手が
「裁判所の代行人」
であっても、法的な理屈が通っていれば恐れることはありません。

今回のケースでは、以下の2点を主張することで、
「ゼロ回答(支払拒絶)」
を返すことができます。

1 「契約の主体が違います」 

契約書を確認してください。

ハンコが個人の実印であれば、契約の主体は個人です。 

「本件契約は、貴職が管理する破産法人との契約ではなく、羽田氏個人との契約です」 
この一言で、法人の破産管財人の請求権は消滅します。

管財人には個人の財産を管理する権限がないからです。

2 「すでに支払いました」 

FAXや通知が届く前に送金済みであれば、新たに支払う必要はありません。 

もし管財人がお金を取り戻したいなら、受け取った社長個人から回収すべきであって、支払った御社に文句を言う筋合いはないのです。

結論: 

以下の文面で、毅然と回答してください。 

「ご請求の件ですが、以下の理由によりお支払いする義務はございません。
① 本件契約は、貴職が管理する破産法人との契約ではなく、社長個人との契約であること
② 本日の送金分については、貴職からの通知が到達する前に、すでに契約相手方へ送金済みであること」

相手もプロ(弁護士)ですから、理屈が通っていれば、
「ああ、そうですか(釣れなかったか)」
と、あっさり引き下がります。

過剰に恐縮したり、忖度したりする必要は一切ありません。

ビジネスにおいては、
「誰と契約したか(契約の主体)」

「いつ払ったか(履行の完了)」
の記録さえしっかりしていれば、どんな
「底引き網」
も怖くはありません。  

※本記事は、架空の事例をもとに、破産法および民法上の弁済の有効性に関する一般的な法解釈を述べたものです。破産管財人の権限を不当に害する意図や、財産隠しを推奨する意図は一切ありません。個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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