企業を辞めた役員が、独立し、顧客名簿を用い、従業員を引き抜いて、競業を始めた場合、元役員や起業した会社や従業員をひとまとめにして訴えることももちろん可能です。
他方で、手続の相手方として個々の従業員もターゲットにすることも可能です。
このように、相手方が複数の場合、あえて、ひとまとめにせず個別に分断し、裁判外交渉したり、訴訟提起する戦略の効用とポイントを考えてみます。
こういう場合、相手方をひとまとめにした方が、コスト(内容証明の郵便代や訴訟費用や弁護士費用)はかからないのですが、状況によっては、相手方をあえてひとまとめにせず、個別に手続を展開した方がいい場合もあります。
というのは、相手方をひとまとめにすると、相手方も結束し、弁護士費用をシェアして弁護士を立てやすくなるからです。
ところが、単独の相手方毎に攻撃をしかけ、個々に和解や職場復帰させる等により解決し、和解等の際にその解決内容を保秘させることをしておけば、相手方が結束することが防げ、こちらが優位に進められる可能性がでてきます。
すなわち、
「分断して各個撃破せよ」
みたいな形で個別交渉によって相手方陣営を切り崩す方法です。
相手方陣営がわりとこぢんまりまとまっており、従業員相互間に意思疎通があり、個別に内容証明等を出してもすぐに結束してしまう場合には、やたらコストがかかるわりに結局全員から委任を受けた弁護士が出てくるだけで意味がありません。
ですが、相手方の意思疎通が十分でなかったりする場合には有効な場合もあります。
さらに相手方の状況を推察するに、そもそも引き抜かれる側の人間は、独立に対するモチベーションはそれほど大きくありませんし、居残るか、出ていくかを天秤にかけた際、どちらが得かを再考するチャンスを与えれば気持ちに変化が現れることも十分あり得ます。
「弁護士マターになったり訴訟になるくらいだったら、私、恩義ある会社を辞めて、起業したばかりで不安定なところにやってくるのじゃなかった」
みたいなメンタリティーがいまだ従業員サイドに残っている場合には個別の内容証明により、相手方陣営が瓦解に至る、なんてシナリオも考えられます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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