軍事上の天才ナポレオンがロシアで失敗したように、海道一の弓取りと言われた徳川家康が三方原で敗北したように、どんな訴訟においても敗訴という事態が存在します。
ただ、敗訴といっても、剣道や柔道のように勝敗が一瞬にして決まるわけではありません。
これまで述べてきたとおり、裁判は、双方の言い分を整理し、双方の言い分の裏付けを確認し、関係者に対して直接質疑し、和解の条件を出させ、譲歩をし、また和解の条件を出させ、さらに譲歩をさせ・・・という重畳かつ緩慢な過程を経て進んでいきます。
結審前後になっても、裁判所は、なお
「被告ももうちょっとお金出せるでしょ。お金出せないっていうんだったら、敗訴させますよ。
本当にいいんですか? 知りませんよ。本当に本当にこれが最後なんですよ。ちゃんと空気読めてますか」
みたいな形で和解を勧め、それでもダメと見極めた上で、判決を下します。
その意味では
「準備ができずパニックになる」
というようなものではありません。
ですが、やはり、不利な結論を見越してある程度の備えはしておくべきだと思います。
まず、敗戦対策のもっとも重要なポイントは、負けた側にどのような不利が発生するか正確に認識することです。
民事の場合、判決に基づいて、収監されたり、首を吊るされたりするわけではなく、判決といっても
「債務者の財産に対して強制執行をしても差し支えない」
ということを宣言した紙切れが裁判所から送られてくるに過ぎません。
強制執行というと
「身ぐるみ剥がれる」
みたいな非常に陰惨なイメージがありますが、実際は、それほど厳しいものではありません。
無論、高価な財産があれば差し押さえられオークションされますが、生活に必要な家財(テレビや冷蔵庫も)まで差し押さえられることはありません(「着ている服以外の服は全部差し押さえられるから、執行官がやってきたら、とりあえず十二単のように服という服を全部着ろ」なんてのは迷信です)。
無論、理論上、債権者からの申立により強制破産される可能性はあります。
ですが、強制破産には、債権者側において相当額の予納金を用意する必要があり、どこかのマンション分譲業者のように資産隠しをしてそうな相手にはそれなりの意味はありそうですが、本当にお金がない人に対しては、まったく意味がありません。
予納金(葬儀費用に相当)を負担してまで
「経済人としてのお葬式」
をあげようなどという債権者は、債務者にとって実に奇特な存在に映るはずです。
ただ、資産家や企業経営者が訴えられたような場合、所有資産や、会社のオーナーとして相当数の株式を保有しており、これが差し押さえられる可能性がありますので、上記のようにタカをくくるというわけにはいきません。
そして、こういう場合は、やはり控訴せざるを得ません。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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