外注は恥ではないし、役に立ちます。
むしろ、 能力も経験もないのに、
「オレは法務部だ。だから、法的なことは任せろ。オレがこのリスクを社内担当者として、責任を以て管理・制御し、会社の安全保障を全してやる!」
「この課題は法律に関することで、しかも、自分は法務部なのに、外部の弁護士に外注してしまうと、自分の存在価値がなくなってしまう。『弁護士がいて、法的なことをお願いするだけだったら、法務とかいらねえじゃん』とか言われたら、どうしよう。反論できないし。だから、なんとか自分も法的なことをやらないと」
という考えは非常に危険です。
能力も経験もない素人が、専門家の領域に介入すると、大惨事を招きます。
そんな危険で無謀なことをしなくても、
「外注管理部署」
としての法務部の積極的役割や活躍の領域はきちんと存在します。
とはいえ、
「法務の外注管理」
って何?
きちっと弁護士のきちっとした仕事を横目でボーっと眺めているだけなんでしょ・・・・・と言われそうかもしれません。
すなわち、
企業内に生じた法務に関する対応課題を、法務サービスを担う法務部がしないで、社外の弁護士に外注するんだったら、法務部は何もやらなくていいのでしょうか?
「弁護士がいて、法的なことをお願いするだけだったら、法務とかいらねえじゃん」という批判に対して、どのように存在価値を示したらいいのでしょうか?
やはり、無理をしてでも、弁護士の向こうを張って、弁護士に負けない法務サービスを自力でやり遂げるべく、頑張ったほうがいいのでしょうか?
と様々な疑問が浮上します。
外注管理部署として、外注管理部署でなければできない役割というものもあります。
外注一般と、外注管理一般について考えてみましょう。
例えば、ニーズの把握や、ニーズの具体化、予算や納期の策定、発注仕様の確定・特定と、発注先の選定、それに発注後の完成・納品・検収までのフォローアップ、発注トラブルが生じた場合(予算の超過、品質割れ、納期割)における対応(クレームを言うなど、受注先とのケンカ)は、重要な外注管理実務であり、外注管理部署しかできない、極めて価値ある、積極的役割のある業務です。
以上は、通常の外注管理や下請管理で生じることですが、法務サービスの外注でもまったく同じことです。
おそらく、
「弁護士がいて、法的なことをお願いするだけだったら、法務とかいらねえじゃん」
という(無知に基づく)批判が生じる背景には、弁護士というものに対する盲信があります。
・弁護士は、どこに頼んでも同じ、
・弁護士が提供するサービスは、価格交渉が働かないし、言われるがまま払うほかない、
・弁護士が提供するサービスは、常にかつ当然に、完全かつ完璧で、特に、管理しなくても、納期内に、スペックを満たす品質のものが提供されるはずだ、
・というより、そもそも弁護士が提供するサービスには、スペックやコストといった仕様に関する自由度はなく、弁護士が提供した最終成果物が、求められる仕様であり、クライアント「風情」が、「このコストでこの仕様で」などという素人意見をいうなどといったおこがましいことを言うべきではない、
など。
たしかに、もしそうなら、
外注「管理」
という概念自体が成立しませんし、弁護士に丸投げして頼んでおけば、正しいコストで、正しい品質のものが、正しい納期で納品されるので、
「観念の余地がなく、そもそも成立しえない外注管理サービス」
を担うセクションとしての法務部は、単なる間抜けな穀潰し、ということになります。
しかし、きちんとした法務部を整え、法務安全保障サービス調達を合理化する先端企業においては、
・弁護士サービスには、レベル差や能力差や価格差が歴然と存在し、選択が介入する余地が広汎に存在する、
・弁護士が提供するサービスは、価格交渉をすべきであり、言われるがまま払っていると、経済合理性を喪失する、
・弁護士が提供するサービスは、常にかつ当然に、完全かつ完璧というわけじゃない。「自分が弁護士でもなく、自分では弁護士サービスを提供できなくとも、弁護士のサービスのことがわかる」という程度の知識やセンスがある法務の人間として、きちんと外注管理(納期管理、品質管理、予算管理、使い勝手管理)をしてはじめて、納期内に、予算範囲内で、正しいスペックを満たす品質のものが提供されるが、管理をしないと、調達に失敗する、
・というより、そもそも弁護士が提供するサービス自体、スペックやコストといった仕様は広汎な選択と自由があり、きちんと予算や仕様や納期を確定し、発注者として責任をもって「このコストでこの仕様でこの納期で」と厳しく伝えておかないと、調達が達成されない
という前提認識の下、法務部が、社内外注管理部署として、しっかりとその役割を認識し、価値ある社内サービスとしての、外注管理活動を展開しています。
特に、リスクすなわち法務ニーズの発見・特定は、最も重要であり、社内の法務サービス部署としての法務部が、その役割を発揮する活動です。
法務や安全保障を担わない、他の企業活動に従事する社員も役員も、自分たちの活動にリスクがあっても気づきません。
楽観バイアスや正常性バイアスによる
「自分の活動に疑問を抱かないし、抱くべきではない」
という思考の偏向的習性が生来的に備わっていますし、計画の効率的実現が職責・役割であるため、疑問を抱かず、後ろを振り返らず、目の前の事業活動をより早く、より効率的に、より手間をかけずに、前へ前と前進させることに集中・没頭することが求められるからです。
したがって、日常の企業活動の法務安全保障上のリスクにいち早く気付けるのは、唯一法務部だけです。
そして、そのために、法務担当者は、楽観バイアスや正常性バイアスを克服し、
・ 常に、不安になり
・ 常に、危険を感じ
・ 危険を感じたら、危険を発見し、具体化・特定化する
という役割を遂行するのです。
早期に具体化・特定化された危険は、もはや安全保障上の脅威ではありません。
どんな危険であれ、早期に具体化・特定化され、かつ、適切な対応力あるプロを探し出し、当該プロに対してしかるべき外注管理を働かせ、危険がなくなるか、無視できるほど小さくなるまで、働きかけを続ければ、
「大事は小事に、小事は無事に」
なり、制御ないし何らかの対応が可能だからです。
このように観察すれば、法務部は、法務サービス発注起点を探し出し、当該法務サービスの仕様や納期やコストを算定し、当該スペックのサービスを提供できる能力のある受注先(弁護士)を探し出し、競争調達の上、発注し、発注後もきちんと納品されるまで外注管理(納期管理、予算管理、品質管理、使い勝手管理)を行い、ときに、スペック未達や納期割れした場合に、サービス提供者たる弁護士とケンカをしたり、発注先を変更したりすることが求められるのであり、
「弁護士がいて、法的なことをお願いするだけだったら、法務とかいらねえじゃん」
という批判は的外れどころか、本来の法務部の役割や意義や価値を理解していない暴言ともいえます。
いずれにせよ、外注管理部署としての法務部が、
「無能な穀潰しの、あってもなくてもいい、間接部門」
となってしまうのか、
「極めて価値と意義のある社内法務サービスを担う重要部署」
となるのかは、外注管理というサービス機能をどのように積極的意義を認識し、その意義を盛り込むか、にかかってきます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所