1つの企業(会計主体)について、複数の会計が存在します。
一般に
「二重帳簿」
というと、犯罪の匂いというかダーティーな印象が感じられますが、
こと「会計」に関しては、
「二重会計」「三重会計」
はごく普通に行われます。
株式公開企業を例にとりますと、
(1)企業の正しい会計上の姿を開示するために正確な損益計算を行って投資家を保護するための財務会計
(2)株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護するための会社計算規則に基づく会社法会計
(3)担税力に応じて適正かつ公平な課税を目的として、税務当局に上納するミカジメ料を正しく計算するための税務会計
の3つの会計、すなわち
「三重会計」
が存在します。
上場企業の会計は三つ存在する(帳簿は単一で二重性はないが、会計は三重会計となっている) ↓ 金商法会計:投資家が正しい投資判断ができるようにすべく、正確な損益計算を行ない、企業の正確な財政状況・財産状態を開示させることを目的とした会計 会社法会計:株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護することを目的とした会計 税務会計:適正かつ公平な課税実現のため、税務当局が企業の担税力を正確に計測することを目的とした会計 |
何だか狐につままれたような感じを受けられるかもしれませんので、背景を申しておきます。
帳簿がいくつもあるとそれはオカシイですが、
「帳簿が1つである限り、そこから枝分かれするような形で(誘導法というロジックを使います)、ユーザー別にインターフェースを違えて、会計という企業の姿を浮かび上がらせることはまったく問題ない」
ということがいえるのです。
このように、いくつもの会計がそれぞれ目的を違えて存在する以上、税務会計が企業会計や会社法会計とまったく同じように表現される必要はありません。
逆に、税務会計には、
「担税力に応じて適正かつ公平な課税を行う」
という独自の目的が明確に存在する以上、企業会計や会社法会計に依拠せず、この目的に沿って独自の解釈適用をしても何ら問題ない、という理屈が導かれるのです。
また、納税者の人数は膨大な数に及び、納税者それぞれの具体的事情を考慮することは非常に困難ですので、課税にあたっては、公平性を維持する観点から、外観に着目せざるを得ないということもあります。
このようなことから、租税法規の適正かつ公正な運用(ミカジメ料の効率的で疎漏のない徴収)にあたっては、課税の対象となる行為の形式的外観を重視する観点において実施されることがあり、このような状況も手伝って、税務会計が他の2つの会計と違った形となる遠因となっています。
このような事情を考えますと、
「企業会計・会社法会計によって処理された結果(証券取引等監視委員会の見解)と、税務会計によって処理された結果(税務当局の見解)が異なった形であらわれる」事態
も十分あり得ます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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