一般に、
「証人尋問は訴訟のもっともドラマチックな場面」
などとされますが、実際の民事訴訟においては、事件の筋、すなわち勝敗は証人尋問開始前にほぼ決まっており、実際のところ、尋問はほとんどの場合、セレモニーにすぎないといえます。
これは筆者が適当な感想を言っているではありません。
弁護士会主宰のセミナーで紹介されていたデータによると、民事裁判官のアンケートで
「証人尋問のあとで心証が変更することはありますか?」
との問いに7~8割近くの裁判官が
「尋問が終わっても心証の変更をすることはない」
と回答していた状況が報告されていました。
これは3つの点で実に興味深い話です。
まず、民事裁判官は証人尋問前に心証を決定している、すなわち、
「どちらを勝たせるか」
を決めた上で尋問に臨んでいる、ということです。
そして、もう1つは、たいていの事件において、証人尋問は、裁判官に何か新しい事実を発見させる場ではなく、すでにわかっている事実を確認する場である、ということです。
最後にいえることは、
「民事事件なんてものは、いちいち話など聞かなくても、関係文書さえみていれば、7~8割方は解決できてしまうものであり、文書が決定的な意味をもつ」
ということです。
経験の浅い弁護士さんや訴訟のことをわかってらっしゃらない素人の依頼者は、証人尋問手続に入ると、
「さ、これから証人尋問! いよいよ本番だ! 裁判官に積極的にアピールするぞ!」
などと気合を入れますが、実は、もうその時点では裁判官はどちらを勝たせるかを決めているのであり、気合を入れるタイミングとしてはかなり時期を逸しているということになります。
すなわち、裁判においては
「尋問前に提出している文書の証拠(書証などと言ったりします)が乏しければ、どんなに尋問でがんばっても無駄」
ということなのです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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