人も企業も、ルールやモラルや信義には従いません。
気にはしますが。
人や企業が従うのは、本能であり、欲です。
企業の本能は、営利の追及、金儲けです。
会社法の教科書の冒頭に会社は営利追及を目的とした社団法人(営利社団法人性)がその本質である、と書いてあるとおりです。
企業が、その本質的本能、すなわち金儲けをしなくなったり、無視したり軽視したり、金儲けという本能が弱ったりすると、企業は死にます。
確実に死にます。
欲や本能が弱まった人間が衰弱して病気になったり死んだりしますが、欲や本能丸出しの人間は、意外と元気でピンピンしています。
企業は、我を忘れて、死にものぐるいで、必死のパッチで、金儲けをします。
社会貢献とか、環境への配慮とか、そんな生ぬるいものではありません。
生きるのに、生き残るのに、ゴーイング・コンサーンを果たすために、死ぬ気で金儲けに邁進します。
より大きな儲けを、より早く、よりイージーに成し遂げることを、徹底的に研究し、真剣に実践します。
ところが、大きな儲け話には、必ず、絶対、280%の確率で、邪魔が入ります。
取引相手が邪魔をしたり、商売敵が足を引っ張ったり、身内や内部から攻撃をはじめたり、客が文句をいい、マスコミが些細なミスやエラーを面白可笑しく書きたてたり、法律や役人がちょっかいを出したり、明らかに意味のない手続きを要求したりします。
そうなると、当然ながら、ケンカが起こります。
ケンカといっても生ぬるいものではありません。
生存をかけた、生き残りをかけた、本能を否定されそうになったことに伴う、重篤なケンカです。
人や企業が、本能や欲に忠実に生き、活動する限り、他者の本能や欲、他者を含めた社会全体の都合を総体化・明確化したルールやモラルとは不可避的に衝突します。
人類社会が登場したころから、ケンカはありました。
今後100年後も、1000年後も、
人が本能と欲をもち健全に生きる限り、
「自由な市場における富を獲得する競争」
という
「経済発展と資源分配を達成する仕組としては人類史上もっとも偉大な発明」
を超える発明がなされない限り、
この世から競争もケンカもなくならないでしょう。
ケンカ、すなわち
「認識や見解や解釈や意見の相違に基づく紛争」
を解決するためには、殴り合い、殺し合い、戦争という手段が古来より存在しました(今でも活用されていますが)。
しかしながら、文明化した社会においては、
「ルールと事実と証拠と法的三段論法と裁判所」
という、
「人類史上もっとも偉大な紛争解決装置の発明」
が登場してからは、すべてのケンカは、(話し合いを前置した上で、最終的には)
「裁判ゲーム」
という
「擬似戦争システム」
で解決されることになりました。
裁判ゲームという擬似戦争システムにおいては、ルールや理論より、
「ブツ」、
すなわち
「証拠」
が勝敗の帰趨を決します。
そして、ビジネス紛争や企業組織内の紛争等を含めた、企業社会におけるありとあらゆる紛争における、もっとも有力な証拠となるべきブツは、文書です。
裁判所は、文書という証拠を基準に、
「対立する当事者がそれぞれの都合で語る、それぞれのストーリー」
の優劣を判断します。
豊かな国が自国の安全保障を全うするために強力な軍事力を実装するように、大きな稼ぎの企業は、安全保障のため、強力で使える文書を装備しておくべきです。
そして、安全保障上、要求される文書の質と量、文書作成にかかわる人間の知的レベルは、
想定する稼ぎや蓄積した財産の大きさと見事に比例します。
なお、企業社会においては、
「裁判ゲームという擬似戦争システムにおいては、ブツ、すなわち証拠が乏しくても、ルールやルールの解釈でなんとかなるのではないか。だから、文書云々より、ルールやルールの解釈に詳しい人間さえいれば、文書作成という地味で労力のかかる営みを怠けたり、サボったりしてもいいのではないか」
という誤解があり、文書の作成や管理ではなく、ルールの知識やルールの解釈技術に長けた法律専門家を高額の報酬で起用して安全保障の実を上げようとします。
しかし、裁判ゲームという擬似戦争システムにおいては、ルールの知識やルールの解釈は、戦略や戦法にしか過ぎず、兵士や兵器や武器弾薬やガソリンや航空燃料や兵糧ともいうべき
「文書」
「証拠」
がなければ、戦いになりません。
以上のとおり、企業は安全保障を無視軽視しては存続できませんし、安全保障のためには、武器とも言うべき
「文書」
と
「文書の作成・運用に長けた実務者」
を、より質が高いものを、より多く保有し実装することが必要になります。
そして、この意味において、文書の作成・運用・管理に絶大な資源を有する中央官庁や銀行が、安全保障において無敵の強さを誇り、
「役所や銀行を相手に裁判やっても勝てない」
という格言となって現れるのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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