00895_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える3:参謀(インテリジェンス、ゲームプラン担当)

「ゲーム環境の認知・解釈、
類似事例や先行事例、相場観情報の取材・収集・整理、
ゴール設定に関する選択肢の抽出・整理、
ゴール(to be)と現状(as is)の間に携わる課題の抽出・整理、
課題解決のために動員しうる資源の整理・把握、
課題解決のための選択肢の抽出・整理、
各選択肢のプロコン(長短所)分析、
といった判断前提について、情報を整理し、判断を行うトップに上程する」
という役割を担うのが参謀です。

参謀は、自分の意見を入れたり、勝手に判断することはタブーです。

というのは、前提として、取組課題が
「正解も定石も不明なプロジェクト」
だからです。

「正解も定石も不明なプロジェクト」
で何から何まですべて未経験で常識が通用しないわけですから、確たることは何も言えません。

にもかかわらず、自分の陳腐な常識や、乏しい経験で、何かを判断したり、解釈したり、選択したりするのは、極めて危険です。

そんな判断なり、解釈なり、選択なりができるのは、唯一、
「失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役」
であるトップただ1人だけです。

このような役割分担を理解し、分を弁えている、というメンタル・スペックをもった参謀がチームには必要です。

もちろん、参謀はバカでは務まりません。

頭の回転が速く、物事を主観や偏見や常識を交えず分析でき、先端的な知見があり、目先が効き、 冷徹に、現実的に計算する知的能力がなければ参謀は務まりません。

知性もそうですが、ストレスに耐えられるタフさも必要です。

主観や偏見や身勝手な常識や独善的な経験則を交えず、具体的・客観的な事実に向き合い、解釈・選択・判断課題については、どんなに面倒でも、逐一
「失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役」
であるトップの裁可・決定を仰ぎつつ、前述のような論理の積み上げで、ゲーム・プランを練り上げていくのは並大抵の神経で務まるものではありません。

この種の精神的負荷のかかる面倒なプロセスを忌避し、
「『常識』という名の『偏見のコレクション』」
や、自身の矮小(わいしょう)な経験や、ちゃちな知性や、独善的で強引な推論でつなぎ合わせ、トップに解釈・選択・判断の前提を提供するのではなく、自己判断で、
「これしかありません。これでやってみましょう。これでうまくいくはずです」
と一方的なプランを押し付け、華麗な修飾語や勇壮な枕詞を並べ立てて、自己陶酔にひたる。

失敗するチームにおいては、そんなタイプの参謀がほとんどです。

どんなに立派な学歴や経歴で、メガネをかけて、七三分けで、高いスーツを来て、高いネクタイを首からぶら下げて、外来語を駆使して、堂々たる態度であっても、トップに選択肢を持ってこないで、自分の考えを押し付けるようなタイプの参謀は、排除すべきです。

アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏は、安全保障や外交課題に関して質問されたら、こういう言い方をすることが多いです。

「すべての選択肢はテーブルの上に揃っている」

安全保障や外交課題は、
「正解も定石も不明なプロジェクト」
の最たるものです。

トランプ氏は、この種のプロジェクトの取り組み方の本質を完全に理解しています。

おそらく彼は、部下やスタッフにこう指示していると思われます。

「君らの意見や講釈は聞いていない。判断材料や選択肢をもってこい。オレが判断し、解釈し、選択するから。勝手な自己判断・自己解釈・自己決定するんじゃねえぞ」
と。

これこそが、
「正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム」
における理想的なトップと参謀の役割分担モデルです。

このような役割分担を理解した、謙虚さと保守性をもった、知的で負荷耐性があり、責任感のある知的プロフェッショナルが参謀の根源的スペックです。

なお、参謀に必要なのは、知性と論理性であり、既存の業界知識や業課常識や業界慣行の知見ではありません(あっても有害ではありませんが)。

むしろ、
「外の世界」
「異界」
に自由に行き来きして、業界では一般的ではない特殊スキルをもち、 知的好奇心、新規探索性、経験の開放性、思考の柔軟性を実装し、健全な自己否定ができる謙虚さがあり、業界の理解とシンパシーはあるものの、業界に浸かっていないタイプの
「外部の知的資源」
を活用した方が良い場合があります。

その意味では、社外取締役や顧問弁護士やアドバイザー等をスポットで招聘・起用することもおおいに検討に値します。

なぜなら、取組課題が、それまでの業界知見や業界慣行が役に立たない、
「正解も定石も不明なプロジェクト」
だからです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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