企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社武山電機工業 副社長 武山 武範(たけやま たけのり、37歳)
相談内容:
あー、もう腹立つ!
パクられましたよ、先生。
ウチが発売している新型液晶テレビをマネされたんですよ。
いえね、ウチが昨年末から販売して大ヒットになっている超薄型液晶テレビなんですが、特許を取得した特殊な技術を使っていて、ありえない薄さと省電力がウリなんです。
春に向けてさらに大々的に売り出そうとした矢先、ライバルメーカーのヨシオ電機が特許権侵害承知で、パクリ製品を発表しやがったんです。
この動きは事前に察知していて、先月内容証明で
「そちらの製品は特許権侵害に当たるので発売を停止せよ」
と求めていたのですが、ヨシオ電機は
「そんなの関係ねえ」
「文句があれば裁判でもやれば?」
の一点張りで、全く話が通じません。
もちろん仮処分を申し立てるつもりですが、私としては、ヨシオ電機の卸先の販売店や問屋に対して
「ヨシオ電機のテレビは特許侵害商品だから取り扱うと大変なことになる」
という警告書を出し、間接的に圧力をかけて、ヨシオ電機のテレビを事実上販売停止に追い込もうと考えています。
このことを社長の親父に相談したら、
「お前はすぐキレて、見境がなくなって失敗するから、鐵丸先生の意見も聞いてこい」
と言われました。
ウチはきちんとした特許権は持ってますし、販売店が譲渡したりすることは、特許権を侵害するわけですから、文句言ってもいいはずです。
先生、問題ないですよね?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:不正競争防止法
不正競争防止法という法律を聞いたことがある方も多いと思いますが、
「どんな法律か」
と聞かれても、その特徴を一言で答えるのはなかなか難しい法律です。
それもそのはずで、不正競争防止法は、その名のとおり、経済社会における不正な手段を弄した競争を防ぐ目的の制定された法律で、経済取引における一般法理ともいうべき法律であり、いろいろな行為を広汎に規制しています。
デッドコピーを禁止しているかと思えば、企業の営業秘密を保護したり、ブランドの保護をしてみたり、はては外国公務員への贈賄を禁止したり、ある意味
「ごった煮」
のような法律です。
逆に言えば、ズルいことや、エゲツないこと、過激なことをしようとするときは、必ず事前にチェックしなければならない法律で、設例のケースも、不正競争防止法の競争者営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項14号)の禁止に該当しないかどうか慎重に検討しておかないと思わぬところで足をすくわれかねません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:競争者営業誹謗行為
設例のケースですが、武山電機が特定の技術に関し特許権を有していて、ヨシオ電機の製造販売した商品が武山電機の商品と似ているからといって、直ちに特許権を侵害したことになるかは定かではありません。
すなわち、特許権があるといっても特定の技術範囲にしか及ばず、しかもこの範囲は、新規性・進歩性という要件をクリアする点から、出願後登録を得るまでの間に著しく狭められてしまうことが多々あります。
また、特許庁がお墨付を与えた特許権が裁判所でいきなり無効と判断されてしまうこともあります。
加えて、一般人の感覚で
「特許権が侵害された」
と思っていても、特許の範囲をよく観察すると、
「対象商品はギリギリ特許を侵害していなかった」
なんていうこともザラにあります。 対象商品が
「特許を侵害している」
との主張を裁判所に訴え出るならともかく、いまだ公的に確定していない
「特許侵害」
という事実を、あたかも特許侵害が既定の事実であるかのように装い、ライバルメーカーへの間接的な圧力を加える目的で取引先に触れ回るというのは不正競争防止法で禁止されている
「虚偽の事実を告知して競争者の営業を誹謗する行為」
と判断される危険があります。
モデル助言:
特許権を侵害されたと考えた企業がライバル企業の取引先に
「特許権侵害の恐れあり」
との警告状を送付した事件で、競争者営業誹謗行為に該当するとして、通知の差し止め、損害賠償に加え、謝罪広告まで認められた裁判例もあるくらいです。
勇み足で過激なことをすると、逆にこちらが詫びを入れさせられる、というのが不正競争防止法の世界です。
ヨシオ電機の取引先に対して、仮処分なり訴訟なり申し立てるということ自体慎重にする必要があります。
別の高裁判決では、
「仮処分申立自体に告知性はなく営業誹謗行為には該当しない」
としつつ、
「申立行為や記者発表は民法上の不法行為になる」
と判断しています。
前述のとおり特許庁の判断を裁判所がひっくり返すことが特許法上認められており、
「特許権侵害を訴え出たら、逆撃をくらって、裁判で大事な特許がつぶされた」
なんて悲劇もよく聞きます。
取りあえず、特許の有効性と侵害性の有無を今一度冷静かつ保守的に判断し、まずはヨシオ電機だけを相手に仮処分申立をした方が無難でしょうね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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