00103_企業法務ケーススタディ(No.0057):役所のイヤガラセで申請が受理されない!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
南野帝王環境マネジメント株式会社 南野 力(みなみの りき、44歳)

相談内容: 
先生も知ってのとおり、ウチの会社は、どんな建物でも、早く、安く、ゴミもあんまり出さんと、バラすことのできる特殊な解体技術をもってる企業として、地球規模の環境問題解決に貢献しとるわけや。
ところで、大きな解体工事受注をした知り合いがいたんやけど、下請け連中とカネがらみのトラブルで、それどころやのうなった。
で、急遽ウチが大阪から解体作業員連れて、現場仕切るようになったんや。
解体ゆうても、昔みたいに簡単にいかへん。
建設リサイクル法ちゅうやつがあって、他県の現場で工事やる場合、そこでの登録がいるんや。
行政書士に完璧な登録申請書作らせて、県に持っていったら、担当のおっさん、
「県内の業者の一部から、関西のヤクザのフロント企業が県内で登録しようとしているが、行政としてきちんと対応しろと言ってきている。県としてもトラブルになるのは困るので、届出は、当面受理できない」
とかぬかしよる。
そりゃ、社員全員、声がデカくて、関西弁が流暢に話せて、目力のあるヤツや。
そやゆうても、コワイのは見かけだけで、ヤクザちゃうで。
ウチの技術があまりにも高度やさかい、要は、仕事取られると思てる県内の業者連中が、びびって妙な工作しとるねん。
わしも
「わしらヤクザちゃうで。あんたら誤解しとるんや」
ゆうたけど、
「県内の業者と話し合いができたら、再度お越しください」
の一点張りや。先生、どないしたらええ?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:行政が許認可を出し渋る際の遣り口
ビジネスを進める上で、行政から必要な許認可を取得するため申請や届出を行う場合があります。
設例の南野帝王環境マネジメント社(以下、「南野社」と言います)も、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(以下、「建設リサイクル法」と言います)21条に基づき、県に解体工事業者の登録申請を行っているわけです。
申請があった場合、県側は、申請書の記載不備の有無等の形式的審査を行い、申請を受理するかしないか、の判断を行わなければなりません。
もし、県が、形式的に不備がないにもかかわらず不受理とした場合、南野社は、不受理処分取消を求めて行政訴訟を提起することになります。
しかしながら、設例の県職員のやり方は実に巧妙で、終始、
「登録申請書を持ち帰ったのは、あくまで南野社の自主的判断」
という形にしております。
これは、後日、
「形式的に不備がないにもかかわらず、屁理屈こねて不受理にしたのは問題だ!」
ということを言われても、
「申請書の受理を拒否したって? とんでもない。県としては、『県内の業者の皆様といろいろとお話し合いをなさってからお越しになったほうがいいんじゃないですか』と助言しただけで、南野社が勝手に届出書をお持ち帰りになっただけですよ」
との逃げ口上で責任回避できるようにしているわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:行政指導
行政側の
「われわれはあくまで助言しただけ。
南野社が助言を聞き入れて勝手に申請書を取りやめた」
との言い種は、行政指導という手法によるものです。
行政指導は、上品に表現すれば
「行政機関が権限の範囲において行政目的を達成すべく市民に行う勧告、助言等であって処分でないもの」
等といわれますが、端的に言えば
「権力を背景に無言の圧力で市民を従わせる」
ものです。
行政指導は、設例のケースのようなものだけでなく、建築行政、金融行政、運輸行政、医療保険行政等、行政の許認可を要する事業活動を展開する際に広く活用されており、中には不当な指導が行われる場合もありますので、注意が必要です。

モデル助言: 
ヤリ手の南野さんも、クレバーな役人のやり口にすっかりやり込められてしまいましたね。
とはいえ、このまま、放置すれば、ビジネスは止まったままで、損害も大きくなるばかりですし、ちょっと工夫が必要ですね。
申請書は、別に県に持参する必要などありません。
県知事宛に書留で送っても申請行為としての効力に影響ありません。
申請書送付と同時に、県知事宛に
「本日、別便で解体工事業者の登録申請を送付したので、受理されたい。申請書自体は、一切の不備が見当たらないので、まさか不受理ということはないと思うが、仮に不受理という不利益取り扱いをされる場合は、行政手続法に基づく所定の処分を行われたい。なお、先般、申請受理に当たって『県内の業者と話し合うこと』を受理の条件として求められたが、当方としてはどのような行政目的達成を企図した指導なのか全く理解できない。貴庁があくまで行政指導を実施される場合、行政手続法35条2項の定めに従い、指導内容を示した文書を交付されたい」
という趣旨の内容証明でも出しておきましょうか。
県の役人も、自分のクビを懸けて不受理処分をしたり、文書で行政指導するだけの根性もなく、権力を背景にちくちくイヤミを言いたいだけですから、すんなり、受理してくれるでしょう。
行政とケンカするなら、行政手続法をうまく利用して、スマートにするべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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