00906_企業法務ケーススタディ(No.0233):チザイ

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年3月号(2月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五の巻(第5回)「チザイ」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
銚子鯉田(チョウシコイタ)水産
大手食品メーカー 株式会社ガタキチ

チザイ:
当社は、チョウシコイタ水産から2億円で購入した特許権で、数社にライセンスし、ロイヤルティを得ています。
最近、ガタキチ社が類似製品を販売し始めたため、内容証明郵便で特許権侵害を警告しました。
ところが、相手はいうことをきくどころか、逆に脅してくる始末です。
弁理士に相談すると、
「この特許はありきたりの技術なので、訴訟したら特許権を失う可能性がある」
といわれました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「チザイ」バブル
知的財産権、通称
「チザイ」
は、2002年に知的財産基本法なる法律が制定され(施行は2003年)、産業界において脚光を浴びるようになりました。
しかし、その内容はあまりにも複雑で、各権利の法的位置づけや体系を整理して正確に理解している人はほんの一握り、というのが実情で、ビジネス界の事故多発地帯となっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:チザイの実体
社会の発展や産業の振興はマネやパクリに依存して展開していくことが多く、かつての日本の産業も、外国のオリジナリティ溢れる技術や製品を巧みに模倣、改良することで発展を遂げてきました。
知的財産権に関する各法も、マネ・パクリ・模倣を原則自由とした上で
「厳格な要件を充足した、保護に値するような知的成果やユニークな標識」
に限定し保護するものとしています。
しかしながら、
「厳格な要件」
は、クリアするのが非常に厄介な代物です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:特許が成立してからであっても安心できない
特許要件が1つでも欠ければ、特許を快く思わないライバル企業が無効審判を申し立ててきますし、特許権が侵害されたからといって、差止や損害賠償請求を仕掛けると、特許がつぶされる危険が生じます。
裁判例では、1998年、冷凍の塩味茹枝豆に関する特許を取得した日本水産(ニッスイ)は、ニチロ、ニチレイ、マルハなどに特許使用料を要求する交渉を開始しましたが、各社はこれに猛反発。
2002年2月にニチロが特許庁にニッスイの特許の無効審判請求をしたことから、ニッスイ側は、この対抗措置として、自社の特許権を侵害したとしてニチロの冷凍塩味茹枝豆の販売差止などを求めて東京地裁に提訴しました。
結果、東京地裁は
「ニッスイの特許技術に進歩性はない」
と判断し、ニッスイ側の完全敗訴となりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「なんちゃって特許」を振りかざした訴訟提起は慎重に
特許権があるからといっても、強気に訴訟提起したら、無効審判請求の申立てや、特許法104条の3の抗弁(キルビー抗弁)が出され、徹底的に調べ上げられ、たちまち無効とさせられる危険が生じます。
裁判で負けたら、相手の販売差止に失敗するだけではなく、今度はライセンスしている会社からも
「ロイヤルティを全部返せ」
といわれる可能性もあります。

助言のポイント
1.「チザイ」「チザイ」とよく騒がれているが、その実体は、弁護士も避けて通るほど難しいい。知ったかぶりで「チザイ」を扱うと大怪我をする。
2.特許権や特許を受ける権利の売買話には要注意。特に「特許を受ける権利」などという代物は、買ったところでビジネス上意味がないことがある。
3.特許が成立したからといって安心するのは早計。無効審判や、キルビー抗弁(特許法104条の3)によるカウンターパンチと、後から攻撃されて向こうにされてしまうことに注意が必要。
4.有効性に疑問のある「なんちゃって特許」を振り回して、差止や損害賠償をすると、特許無効の抗弁を提出されて、特許の死期を早める結果になりかねない。訴訟提起には慎重な検討が必要。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです