00122_企業法務ケーススタディ(No.0076):外国人雇用の際の注意点!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社オリエント商会 社長 若崎 麻王(わかさき まおう、46歳)

相談内容: 
当社は、長年、東南アジアの日用雑貨の輸入・販売を行ってきましたが、景気も底を打ってこれから回復に向かうようですし、今度、思い切って事業拡大を図ろうと考えて、インドとの取引拡大を目指すことにしたんです。
そんな中、新商品として目をつけたのが、今、オランダでブームになっている、「アッシシ紅茶」です。
なんでも、疲れたときに飲むと、不幸をサッパリ忘れて、いい夢がみれてスッキリする、という魔法の紅茶だそうです。
でも、このアッシシ紅茶、なんでもインドの山奥でしか栽培されていないらしく、そもそも、取引量も少ないみたいだし、日本の商社経由で買おうとするとめちゃめちゃ高くなってしまうんですよ。
そこで、インドの山奥の農家と直接交渉して根こそぎ買い占めてやろうって考えて、誰か現地の言葉が分るインド人とかいないかなぁって思って、インド人の通訳を募集したら、長年、インドの首相官邸でインド山岳料理のコックを務めた後、日本のインド料理レストランでコックとして勤務しているっていうラジバンダリカイヨという女性が応募してきたんです。
さっそく、面接したところ、見た目はちょっと怖いけど、至って真面目そうだし、彼女が言うには、日本のレストランで勤務するために取得したって言うビザの期限もあと2年あるみたいだし、すぐに、バイヤーとして正式採用しました。
そしたら、昨日、入国管理局の人間がうちの会社にドヤドヤと乗り込んできて、ラジバンダリカイヨの在留資格ではバイヤーの仕事はできないからすぐに辞めさせろ、そうじゃなきゃ国外退去だ、って言うんですよ。
もちろん、彼女を採用する時には、ちゃんと就労ビザを確認してるし、全く失礼な話ですよね、先生。
一発、国家賠償請求でもカマしてやってくださいよ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:旅券(パスポート)と在留資格(ビザ)の違い
まず、旅券(パスポート)とは、その国の国籍を有している者に対して、その国が発行し、交付するものです。
例えば、日本の国籍保有者には、日本国が日本の旅券を、米国の国籍保有者には米国が、米国の旅券を発行することになります。
これに対し、在留資格(ビザ)は、外国人に対して、つまり、入国を認める側の国が、入国を求める外国人に対して発行するものです。
したがって、日本人が米国へ行くときは、短期の観光などで行く場合など在留資格が免除される場合は別として、原則として米国政府の在留資格が必要となります。
ちなみに、在留資格を付与するか否か等については、当該国の主権の本質的なものとして、入管当局の広汎な裁量に属します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国人の入国・在留許可制度
外国人が日本に入国し在留するためには、前記のとおり、旅券以外にも在留資格が原則必要となりますが、当該在留資格は、日本に滞在する目的ごとに付与されることになります。
現在、出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)は、
「外交」
「報道」
「留学」
「家族滞在」
といった27種類の在留資格を規定しておりますが、外国人は、日本国から与えられた在留資格以外の活動は行うことができません。
ここで注意しなければならないのは、入管法は、日本国内にて就労する資格については、
「就労」
という一般的抽象的な在留資格ではなく、個別具体的に就労資格の種類を規定しているということです。
例えば、日本の中学校で外国語を教えるために
「教育」
の在留資格で在留している外国人が、本来、
「技能」
の在留資格が必要となるコックとして就労した場合などには、最高で1年以下の懲役刑が科せられたり(入管法73条)、日本からの退去強制に処せられる場合もあります(入管法27条以下)し、そのような外国人を雇った者も、不法就労助長罪として、最高で3年以下の懲役刑が科せられることがあります(入管法73条の2)。

モデル助言: 
日本において適法な在留資格に基づき就労していた外国人を採用する場合には、雇用にあたって、まず、入国管理局に対し
「就労資格証明書交付申請」
を行い、転職後も現在の在留資格で就労させることができるかどうかを確認しなければなりません。
申請の結果、転職後の職種や業務内容が現在の在留資格の範囲に該当しないと判断された場合にはそもそも雇用することができません。
ラジバンダリカイヨさんの場合、明らかに
「技能」
の在留資格で在留していたのでしょうから、
「人文知識・国際業務」
の在留資格を必要とするバイヤーとして雇用することはおよそできません。
何とかしてあげたいところですが、本来、
「就労させることができない外国人」
を雇用してしまった以上、どうすることもできません。
ラジバンダリカイヨさんには、元の職場に戻るよう進めるか、一度、インドに帰って改めて
「人文知識・国際業務」
の在留資格を取得してもらうほかありません。
そうじゃないと、ラジバンダリカイヨさんの現在の在留資格すら取消されてしまったり、若崎社長も連座させられることだってありますので、注意してください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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