本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年9月号(8月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十の巻(第10回)「 信用毀損行為 」をご覧ください。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
Mono-Money電工(「モノマネ電工」)
信用毀損行為 :
当社は、特許権侵害という被害を受けました。
そこで、 相手先であるモノマネ電工に直接ではなく、 卸先の問屋や家電量販店、小売店相手に、特許権に基づく販売禁止等の仮処分を申し立てることとし、さらに、記者会見を行い
「モノマネ電工の電動鼻毛抜きは、特許侵害製品という理由で、わが社は仮処分を申し立てました!」
と発表しようと考えます。
そうすると、モノマネ電工の取引会社は、仮処分の決定が出る前に、商品取扱を自粛することでしょう。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:仮処分の申立てと信用毀損行為
「信用毀損行為」
は、不正競争防止法が制定された昭和9年(1934年)当時から規定されている、古典的な不正競争行為ですが、社会の仕組みが高度化複雑化するに伴って、巧みな手法が開発されるようになりました。
その1つが、
「競争相手の取引先(卸先の問屋や小売店)に対して嫌がらせの仮処分の申立てをし、競争相手の商品に法的なケチをつけた仮処分申立書を、合法的に送りつける」
というものです。
信用毀損行為とは異なるのは、仮処分という裁判手続の申立書類を法律に基づいて送達する方法を用いている点で、裁判例では、
「特許権侵害等を理由とする差止めの仮処分など仮の地位を定める仮処分の申立てに伴って、申立書の内容を相手方に知らしめることは、不正競争防止法2条1項14号所定の告知行為にはあたらない」、
さらに、信用毀損行為にはならない、とされています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:一般法たる民法を忘れるべからず
たしかに、裁判所は、信用毀損行為には当たらないとの判断をしていますが、他方で、その特許が無効な特許であるとの判断を行った上で、仮処分の申立人が行ったその他の行為を詳細に認定し、結論としては、仮処分を申し立てた行為と、その後に行った記者発表については民法上の不法行為が成立するとの結論を下し、仮処分申立人に対して、約2000万円という高額の損害賠償の支払いを命じています(知財高裁平成19年10月31日判決)。
なお、同判決においては、
「特許権を侵害していると仮処分の申立人が主張している業者相手ではなく、特許権侵害訴訟への対応能力に乏しい小売業者を相手に仮処分申立てを行った事実」
を重視し、
「競業者の信用を毀損して市場において優位に立つこと等を目的としていた」
ことを認定しています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:特許権を振り回すとヤブヘビになることもある
特許権を主張して侵害者相手に差止め・損害賠償請求等の訴訟を起こす場合、侵害者側から
「そんなインチキ特許は無効だ」
という抗弁が提出され、その結果、特許庁からお墨付きをもらったはずの特許権が無効と判断され、返り討ちにあう危険性もあります(注:特許法104法の3の抗弁、いわゆるキルビー抗弁)。
助言のポイント
1.特別法にばかり目を向けていると、民法などの一般法に足をすくわれることになる。
2.効果が強烈な法的手段を用いる場合、「ひょっとしたら、これってヤリすぎじゃないか」というバランス感覚を働かせ、リスクについて入念に調べること。
3.訴訟の提起(仮処分の申立てを含む)は「裁判を受ける権利」で保障されるが、権利の行使といえども、度が過ぎると、訴訟の提起自体が不法行為となることがある。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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