00920_企業法務ケーススタディ(No.0240):不動産取引と登記

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年11月号(10月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十二の巻(第12回)「不動産取引と登記」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
水差(ミズサシ)商事
望主(モチヌシ)建設株式会社
佐岸(サギシ)物産

不動産取引と登記
時価の3割 で入手したビルとその敷地について、
「真の所有者(モチヌシ建設)より所有権を譲り受けたから」
と、ミズサシ商事が、当社に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続と建物の明渡しを求めてきました。
当社としては、登記簿謄本でサギシ物産が所有者であることを確認してから、サギシ物産から当該ビルと敷地を買いましたし、登記簿謄本上は、モチヌシ建設はサギシ物産に売却しているはずですし、現在の所有者は当社です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:不動産取引と公示の原則
不動産とは
「土地及びその定着物」(民法86条1項)
をいい、簡単にいえば、土地と建物のことをいいます。
わが国では、建物と土地は別個の不動産とされており、それぞれが独立して取引の対象とされています。
不動産取引において、土地・建物の所有権の移転は
「その登記をしなければ、第三者に対抗することができない」(民法177条)
というルールを設けています(「公示の原則」といいます)が、その大前提として、
「正当な所有権移転の事実」
が必要です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不動産取引と公信の原則
登記だけがあったところで、
「正当な所有権移転の事実」
があったことにはなりません。
わが国の登記制度では、
「所有権移転の登記の存在から、所有権移転の事実が存在するものと誤信してしまった買主は、救済してあげるべき」
という
「公信の原則」
を採用しておらず、登記官も形式的な審査権限しか持っていません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:正当な所有権の移転を受けるために
登記に公信力がないわが国における不動産取引においては、売主が正当な所有権移転を受けているかどうかを確認することが大変重要です。
現在の制度では、これを確認するための画一的な基準や確実な方法が存在しません。
そこで、不動産会社や各種の専門家は、売主や売買目的不動産に関してなるべく多くの情報を収集・検討し、正当に所有権移転を受けることができる安全な取引であるかどうかについて、できる限り慎重な判断をしようとしているわけです。
不動産取引の際には、登記簿の記載だけに依拠せず、事前に現地を視察・調査することはもちろんのこと、固定資産税納税者をチェックし、テナントに賃貸借契約における賃貸名義人を確認し、場合によっては売主の前の所有者に確認をとるなどし、さらには信頼できる不動産業者(宅地建物取引業登録業者)を仲介させて慎重に取引を進める必要があります。
その上で、少しでも不審な点、不自然な点が発見された場合には、さらに慎重な調査を実施して、登記簿の記載と実体の権利関係に齟齬がないかを疑ってみるべきであるといえます。

助言のポイント
1.「登記だけ移してしまえば安心」というのは大間違い。登記は、正当な所有権移転を受けてこそ意味があるものと思おう。
2.登記簿の記載だけで売主を正当な所有者であると信頼するのは非常に危険。わが国の登記制度においては、登記に公信力はない。
3.売主の所有権を100%確認する画一的な基準や方法は存在しない。なるべく多くの情報を収集・検討して、売主の所有権を可能な限り検証しよう。少しでも不審な点や不自然な点があれば、十分な調査を行おう。
4.お買い得物件ほど、信頼できる宅建業登録をしている不動産業者を仲介させよう。
5.安易に「不動産の所有権が取得できなくても、売買代金の返還や損害賠償を求めればよい」などと考えない。トラブルを起こすような会社からの債権回収は、まず不可能と心得よう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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