00934_企業法務ケーススタディ(No.0254):懲戒事実の公表

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十六の巻(第26回)「懲戒事実の公表」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 部長 悪辣(あくらつ)

懲戒事実の公表:
当社の従業員が、取引先に商品納入する際に、過大な金額を請求し横領を行っていた事実が発覚したため、就業規則に基づいて当該従業員を懲戒解雇しました。
取引先には謝罪にいくつもりです。
他の取引先との間でも同様の事件を起こしている可能性があるので、このことを公表して取引先に釈明すると同時に、従業員に一斉に知らせることで社内の法令遵守意識を高めていこうと考えます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:従業員による犯罪行為
従業員の非違行為は、遅刻等の服務規律違反や企業取引に関連した犯罪等といった職務行為と関連の深いものから、痴漢等といった職務行為とはまったく関連しない犯罪行為、と大きく二分することができます。
後者については、企業が道義的責任を感じることはあっても、直接には無関係な事象ですから、企業価値の棄損に直結するものではありません。
しかしながら、前者については、企業活動と関連がある以上、当該非違行為によって損害等を被った利害関係人に対する十分な釈明、 信頼関係の再構築、そして株主からの責任追及に備える必要も出てきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:懲戒処分とは
従業員による非違行為がなされた場合には、使用者である会社は懲戒処分をすることができます。
その手段や手続について事前に定められ告知される必要があり、前もって就業規則等に詳細な規定の用意が必要です。
「懲戒解雇」
は懲戒処分のうちで最も重いものであることから、発動するための要件も懲戒処分のうちで最も厳格です。
「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」(労働基準法20条1項ただし書き)
に該当することはもちろん、解雇権濫用の法理(労働契約法16条)も乗り越える必要があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:懲戒処分の社内外への公表
犯罪行為の存在が明らかな場合は公表すべきとも思われますが、公表の態様によっては、公表を行った企業が、懲戒解雇となった元従業員に対して損害賠償責任を負う裁判例もあります。
公表が一律に禁止されるわけではありませんが、従業員が行った非違行為に対処する観点から、必要最小限の範囲での事実の公表が求められます。

助言のポイント
1.懲戒処分? まずは証拠集め。自白していても後に前言を翻す従業員なんて山ほどいる。具体的な事実経緯について書面で確認しよう。
2.どれだけ悪いことをした従業員がいたとしても、無限定に公表するなんてことは残念ながら許されていない。
3.公表の必要があるときには、その必要に応じた公表にとどめること。
4.それでも不安なら、従業員から「公表しても損害賠償とか請求しない」と一筆もらっておくこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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